ショートヘア
















「ちょっと切り過ぎちゃったかな…。」



は、午前中のみの仕事を終え、髪を切りに行った。
季節は夏になって、髪をスッキリさせたい…。
そんな風に思っての行動だった。

仕事中は、髪を後ろに束ね、ヘアゴム1つで縛っている。
しかしそれも最近暑くなり鬱陶しく感じる。
かといって、髪をアップにするほど長くもない。
要するにとても中途半端な長さの髪。
それではいっそのこと、髪を短くしてしまえば良い…。
その結果、自分が思っていた以上に短い髪型になってしまった。



「う〜ん、この髪型って変じゃないのかなあ…。
 …喜助さんが見たら、なんて言うかしら…?」



伸びるまでの辛抱だと自分に言い聞かせ、
気に入らない髪型のまま、浦原商店へ向かった。





























サン、いらっしゃ〜い♪」



店番をしていたのは、店主・浦原喜助。
相変わらず室内でも帽子をかぶっている。



「こんにちは…あれ?ジン太くんとウルルちゃんは?」

「遊びにいってるッス。」

「それで喜助さんが店番を?」

「ハイ、たまにはお仕事しないとテッサイに叱られますから(笑)」



そんな会話をしていると、居室の奥から「ニャ〜」と鳴く一匹の黒猫……………、
夜一が顔を出す。



「夜一サン!」

「 ? 夜一さん?」

「あ!すみません、この猫、『夜一サン』という名前なんス。」

「そうなんですか…。猫、飼ってらしたんですね。」

「飼ってるというか、自由にさせてるというか…。」

「野良ちゃんなんですか?」

「まあ、そんなところッスね。」



は、夜一と面識はあるが、夜一=黒猫だということは知らない。
「そのうちわかる日が来るじゃろう」と夜一が言うので、あえて彼女に伝える気はなかった。

黒猫を抱っこすると、 は自分の膝に乗せる。
そして顎の下を優しく撫でると黒猫は気持ちよさそうに眼を細めた。



「この猫ちゃん、綺麗ですね♪」

「そうッスね。」

「ホント、夜一さんにそっくり♪」

「…そおッスかね?」

「ええ、気品があるし、ホントに綺麗。」

「それはちょっと言い過…あ、痛ッ!!」



黒猫は、 の腕からスルッと抜けると、喜助に爪を立てて一振り…引っ掻くと、
居間の奥へ行ってしまった。



「あ、 サン、お茶も出さないでスミマセン。
 夜一サンのミルクもついでにあげてきちゃうので、待ってて下さいネ。」

「え?あ、すみません、お手数をお掛けします。」



喜助は、台所へと消えていった。
は、未だ喜助から髪のことを言われていない。



「変な髪型になっちゃったから、気を使って何も言ってくれないのかしら?
 それともいつも帽子を被っているから、髪型までは見えない?」



それはないか…。と思いながら、
まあ、「変な髪」と言われるよりも黙ってくれている方がマシかなと
は思った。



















喜助が台所へ行くと、さきほどの黒猫…夜一が、毛繕いをしている。



「夜一サ〜ン、引っ掻くなんて酷いじゃないッスかぁ〜。」

「お主が悪いのじゃ…そんなことより…」

「 ? 」

、髪を大分短くしたようじゃの。」

「…そうッスね…。」

「お主、『オトメゴコロ』と言うのがわからぬのか?」

「は?」

「『髪を切ったのか』とか『似合う』とか… に一言声を掛けぬのか?」

「はあ…まあ… そうッスね…。」



実は、喜助は が店に入ってきたと同時に髪型に気づいていた。
それは喜助がドキッとするほど似合っていて、
少し少年を思わせるような、爽やかで眩しくて…。

別にショートヘアが好みという訳ではない。
ただこんなにもショートが似合う人がいるのかと思うほどに、
の姿が眩しく見えた。



「はは〜ん、喜助〜、お主、恥ずかしがっておるのか?」

「な、何を馬鹿なことを言ってるんスか!?」

「よいよい、好きなおなごが髪型を変えて、あまりにも眩しくて見てられぬのじゃろう。」



図星である。



「………。」←何も言い返せない喜助。

「まだまだ若いのう(笑)」

「………」←まだ言い返せない。

「その気持ちを に言ってやれ。喜ぶじゃろ。」

「言われなくてもわかってるッスよ。」

「そういう処が『オトメゴコロ』が分かっておらぬという事じゃ……ところで。」

「何スか?」

「ミルクはまだかの?」

「…ハイハイ。」


















「おまたせしましたァ〜」と喜助が奥の台所から出てきた。



「猫ちゃんは?」

「ミルクを飲むだけ飲んで、何処かへ行ってしまいましたヨ。」

「そうですか〜」

「今日は皆出払っていて、店番しながらのお相手で申し訳ないッス。」

「いえいえ、私のほうこそ、いつもお邪魔してしまってすみません。」

「何を謝っているんスか〜?いつも来て下さって本当に嬉しいんス♪
 ジン太もウルルもテッサイも皆アナタのことが大好きですし♪」

「そう言っていただけるとありがたいです。」

「コチラこそいつもありがとうデス。」



店番といいつつも、これといったお客も来ず、
2〜3時間ほど二人はお喋りを続けていた。





















「あ、もうこんな時間!!そろそろ失礼しますね。」

「… サン!」

「はい?」



喜助は軽くなった の髪の毛にそおっと触れた。



「き、喜助さん?」

「本当によく似合ってる…。」

「え?」

「さっき、店に入ったときにスグに気付いたんスけど、見とれてしまって…。」

「み、見とれてって…。」

「今頃、髪型の感想を言ってるなんて…気が利かないヤツッスね…。」

「そんな事ないです!!褒めていただいてとっても嬉しいです!!
 実は、切りすぎたと思って、あまり気に入ってないんです…。」

「切りすぎ…ですか?こんなに似合ってるのに。」

「喜助さんにそう言われると、切ってヨカッタって思えてきます。」



は、本当に嬉しそうにニコッと笑った。
その顔があまりにも可愛くて、自分の見とれる顔を隠すかのように喜助は帽子を更に目深にかぶる。



「あ、でも一つ、残念なことがありまス。」

「 ? 」

「ショートヘアが似合いすぎて、 サンのファンが増えてしまう事。」

「へっ?」

「それが残念な事ッス!」



は、喜助の言っている意味が最初わからなかったが、
理解したのか、再び笑顔を向けて言った。









「……喜助さんに気に入っていただけるだけで充分です。」











自分に向けている満面の笑顔と、眩しいほどに似合っているショートヘアの彼女に
喜助は更に眩暈を起こす感覚がした。












FIN :*:・。,☆゚'・:*:・。・:*:・゚'☆,。・:*:*:・。,☆゚'・:*:・。・:*:・゚'☆,。・:*






喜助「ホントーーーーーに、 サン、可愛かったッスねぇ〜vvv」
夜一「そうじゃな…それにしても…」
喜助「何スか?」
夜一「 のことになると、お主は『腑抜け』になるのう( ̄ー ̄)ニヤリッ」
喜助「そりゃあそうッスよ〜。大好きですからねえ〜。」
夜一「それを には伝えたのか?」
喜助「アタシの勝手な好意ッスからね…伝えられないッスよ。」
夜一「ったく、こういうことは臆病じゃのう…。」
喜助「余計なお世話ッス(--#)」
夜一「喜助!『当たって砕けろ』じゃ!」
喜助「え〜!砕けちゃうんスか〜?」
夜一「やってみなければ分からんじゃろ?」
喜助「砕けるのはイヤッスねえ〜」
夜一「女々しいヤツじゃ。」
喜助「何とでも。」
夜一「知らぬは本人とはこの事じゃ…(ボソッ)」
喜助「え?夜一サン!!い、今、なんて言ったんスか!?」
夜一「さてな、儂は何も言っておらん。」
喜助「たしか『知らぬは本人…』とかなんとか言ってたんじゃないッスか!?」
夜一「その様なこと、言っておらぬぞ。」
喜助「いいえ!確かに『知らぬは…』」
夜一「ええい!五月蝿いヤツじゃ!儂はもう行く!!」
喜助「ま、待って下さいよぉ〜!!」
夜一 シュッ!(瞬歩)