透明な雪
















「今日はやけに静かッスね。」



浦原商店のちゃぶ台で、テッサイが入れてくれたお茶を飲みながら
喜助はなんとなく思った。



「ジン太とウルルは?」

「遊びに行っております。」



テッサイも自分のお茶を入れて、喜助と一緒にくつろいだ。
なんとなく周りの動きがスローな感じがして、喜助は不思議に思う。



「…なんか今日は、いつもと空気が違う気がするんスけど…。」

「店長、今日は店を開けなくてもよい気がするのですが。」

「へ?」



窓を開けて、外の様子をうかがうと、一面銀世界の景色。
まだまだ雪は降っている。



「あらま!雪が降ってたんスか…。」

「この雪では、商売も上がったりですな。」

「そうッスねえ…。」



それで、ジン太とウルルは遊びに行ったんスね。
今頃公園で大きな雪だるまでも作っているんでしょう…。
それでは…と、紙に大きく「本日雪の為臨時休業」と書いた。



「私共は適当に店を開けたり閉めたりしておりますが、
  殿は病院故、こんな日でも休むわけにはいきませんな…。」

「…看護師は大変ッス…。」

「…今日は寒いので、夕飯は鍋にでもいたしましょう。
 あとお汁粉の準備もしておこうかと。」

「鍋!いいッスね!」



「それでは、昼食の準備をしてきます。」とテッサイは奥の台所へ行ってしまった。
店が休みでもそうじゃなくても、喜助の行動はマイペースで、
夜型の喜助にとっては今の時間がとてもまどろむ時であり、
コタツに入ったままウトウトと眠りについた。



























「あ、暑いッス…。」



羽織を着たままコタツに入り、部屋のストーブもついたままでうたた寝をしていたせいで、
喜助は冬だというのに暑さで起きた。



「いや〜、暑い暑い。」



そう言いながらウチワを探すが、この季節にウチワは片付けてあり、容易には見つからない。
いつも持っている扇子は自室の何処かへ置きっぱなしのようで、正直取りに行くという考えが頭に回らない。



「…仕方ないッスね、外で涼んできますか…。」



手に煙草と煙管を持って喜助は店先へ出た。

























店の軒先に縁台を出して、煙管に火を付ける。
雪は朝よりは弱いものの、まだまだ降っていた。
ジン太とウルルが残していった足跡もこの雪でとうに消えている。
そして人通りも全く無い。









そこへ真っ白いコートのフードを被った女性が
透明なビニール傘をさして足早に通ってゆく。



…サン?  サン!!」



喜助は少し声を荒げて名前を呼んだ。
すると白いコートの女性が立ち止まって振り向いた。



「あ!喜助さ〜ん!」

「やっぱり サン!」

「こんにちは〜!!」

「どうしたんスか?こんな雪の中!?」

「近所の往診の患者さんの処へ薬を届けに行ってきまーす!」

「そうッスかー!気を付けて!」



は喜助に笑顔を向けると、また足早に去っていった。
きっと のことだから、薬を届けたら同じ道を通るに違いないと喜助は思い、
そのまま雪の中、煙管をくわえながら待っていた。



















それから10分程経ち、弱く降っていた雪がまた強めに降り始めた頃、
その人はやって来た。



サン!おかりなさ…!!」
















雪が降る中、何もかも真っ白で埋め尽くされた世界に
白いフードを被って立つアナタが
雪に溶け込んでしまいそうな気がして…。

そうしたら、白い雪がだんだんと色を成さない透明に思えてきて、
そのまま が溶けて消えてしまいそうな錯覚を覚えた。















「…喜助さん?」

「…お、お帰りなさい… サン。」

「どうしたんですか?…って、喜助さん!この寒い中、そんな格好で!!」

「はい?」

「羽織は?そんな甚平だけで!しかも裸足で下駄じゃないですか!」

「あ、いや、さっきまで部屋のストーブとコタツで暑くなっちゃったもんで。」

「いくらなんでも…。雪が降ってるんですよ!」



は、自分のミトン型の手袋を外すと、自分の両手で喜助の頬を包む。



「ほら!こんなに頬が冷たいです!」

サンの手は温かいッスねえ。」



自分の頬を包む の手に、更に自分の手を重ね、
彼女の温かさを再確認すると、 が目を丸くして驚いた。



「喜助さん!手も冷たい!!」

「そうッスか? サンの手が温かいんですよ。」

「それは、手袋をしてたからです!」



は先程外した手袋を、喜助の手にはめる。



サン?この手袋?」

「私はもう温かいので。喜助さん!この手袋をしてて下さい!」

「 ? 」

「ミトン型だし、少し大きめの手袋だから喜助さんの手にも入ると思いますよ。」

「いや…あの…。」



サン?アタシの家はココだから、家の中に入れば
暖をとるなんてスグにできるんスけどね…!?

手袋を見ると、彼女が着ているコートと同じ白で、
喜助はさっきの溶けて消えそうな を思いだした。



サンがさっきココに寄って下さった時、」

「はい?」

「アナタがこの雪に溶けて無くなってしまうかと思ったんスよ…。」

「私が?」

「真っ白い雪の中で、白いコートを着たアナタが同化してしまって。」

「……」

「『白』という色は、他の色があって初めて『白』という色が認識されるんスね…。
 だから、 サンが白い雪と同化してしまうと、雪もアナタも色を成さなくなって、
 透明になって消えてしまうような気がしたんス。」



「全く、いい歳をして何を言ってるんスかねえ」と喜助は苦笑したが、
 あまりにも寂しそうな顔をして笑う喜助を見て の胸は少し苦しくなる。



「消えて無くなるなんて、そんなこと絶対に無いです!」

サン?」

「もし、もしも逆に喜助さんが雪と一緒に消えてしまったら、私は…。」



「『私は…。』その続きは何て言ってくれるんスかね…。」と喜助は思う。
 しかし、わざと答えを出させないように話題を変えた。



「あ! サン!!こんな時間だ!病院の方は大丈夫ッスか!?」

「え!?あ!きゃー!大変!!」



「それじゃあ、失礼しますねー!」と走り去ろうとした に喜助は声を掛けた。



「今日の夜は『お汁粉』を作るんで寄って下サーイ!!」

「あ、ありがとうございまーす!寄らせていただきますねー!」



は振り返って大きく手を振ると、雪の降る中を消えるように去っていった。



サン、もしもアナタが雪と一緒に消えてしまうようなことがあれば、
 アタシはアナタを追いかけて、アナタと同じように雪と溶け、そして…」









「アナタと溶け合って一緒に消えてしまえばいいと思ってるんスよ…。」









こんなことを話したら、アナタはなんて言うんスかね?
こんな僕をどう思うんでしょう…。

この雪のように、アナタへの想いがどんどん積もっていっても、
アナタに届く前に溶けて消えてしまうのかもしれません…。

それでも僕は雪のように、何度もアナタにこの想いを降り積もらせるに違いない…。









そしていつか、僕の気持ちに気付いてくれたら…。



































の手袋は、まだ喜助の手にはめたまま。
その手袋に眼を閉じ、唇を落とし、喜助は店の中へ入る。
そして、奥にいるテッサイに



サンがお汁粉を食べに、今夜いらっしゃいますよん♪」



と、いつものように明るく告げた。
テッサイは「承知。」と短く返事をした。











FIN :*:・。,☆゚'・:*:・。・:*:・゚'☆,。・:*:*:・。,☆゚'・:*:・。・:*:・゚'☆,。・:*






夜一「女〜々〜し〜い〜のう〜!!」
喜助「な!恋とはそんなもんなんス!!(--#)」
夜一「ガツンと告白して、早く をゲットだぜ☆! じゃ!!」
喜助「まーた新しい言葉を仕入れてきたんスね(苦笑)
   今度は『ガツン』と『ゲットだぜ☆!』スか!?」
夜一「ふふん!流行に敏感なのじゃ!」
喜助「流行って、一体いつの流行…」
夜一「何か言ったか?(--#)」
喜助「いーえ、何も!」
夜一「ふん、まあいい。とにかく、早く とくっつけ!」
喜助「いつも簡単に仰いますネエ…_| ̄|○」
夜一「ところでじゃ、さっきから『鍋』と『汁粉』がどーこー言ってたのう。」
喜助「ああ、今日の夕飯ッスね。」
夜一「…儂も食べるぞ!」
喜助「え!?じゃあ、テッサイに材料の追加を言っておかないと!!足りなくなるッスよ!」
夜一「鍋は…鍋一杯分、汁粉は…餅一升分は食べるからの!!」
喜助「…エンゲル係数高すぎッスよ…(泪)」
夜一「何じゃ?その『エンゲル係数』とは?」
喜助「エンゲルさんの係数ってことッスよ。」(←間違いではない(笑))
夜一「(゚Д゚)ハァ?」
喜助「家計の消費支出のうち、食料費がどのくらい占めているのかを数値(%)で表示したもので、
   エンゲル係数は、生活の程度を表す経済指標としても使われているッス。
   家計における食料費は、収入の大小にあまり関係なく、ほぼ一定の支出があると考えられ、
   収入の増加にともなって、消費支出に占める食料費の割合が減少するという統計的現象が見られるッス。
   この法則は、発見者の名にちなんでエンゲルの法則とよばれ、消費支出に占める食料費の割合のことをエンゲル係数と言い、
   エンゲル係数が小さいと、生活にゆとりがあると考えられ、収入がある金額以下になると、食料費が削られるために、
   収入が低いにもかかわらずエンゲル係数が小さくなるという逆転現象も起こるわけッス。」
黒猫夜一「にゃ〜お♪」(←説明が面倒臭いので、猫に変化して、猫だからわからないという顔をしている)
喜助「ああ!夜一サン!せっかく説明したのにズルイッス!!!(TДT)」