風邪
午前8時頃、喜助は週に1〜2回、朝の散歩をする。
浦原商店から歩いて約10分、黒崎医院の前で自分の想い人……
が
病院の前を掃除し始めるのが午前8時15分頃。
喜助は彼女に声を掛けるでもなく、散歩のついでにというカンジでなんとなく
遠くから見るのが、ちょっとした楽しみだった。
病院の診察が始まるのが午前9時。
待合室が開くのが午前8時30分。
只今、午前8時29分。
未だ
の姿は見えない。
「珍しいッスねぇ…。」
ほぼ時間通りに仕事をこなす
が、まだ外の掃除に出てこない。
たまには他の仕事か何かで掃除が出来ないこともあるだろうと、
病院を後にしようとした時、ドアが開く。
「い、一心サン…!?」
そこには、ホウキを持った黒崎医院の医院長、黒崎一心が面倒臭そうに
病院の外回りを掃こうとしている姿だった。
「…さっきから、何コソコソ覗き見してんだ!?」
「散歩で通りかかっただけッスよ〜♪」
「へぇ…。」
「ご挨拶が遅れたッスね。一心サン、おはようございます〜。」
「…オメエの目当ては
だろ?今日はいないぜ。」
「は?
サンがいない?」
「あぁ、風邪を引いたらしくってな、まあ、あの調子じゃあ明日もたぶん休むんじゃねえか?」
サンが風邪!?
それは一大事ッス!!はやく看病しなくては!!!
喜助は、急いで向かおうとした…が、
「浦原!ちょっと待て!」
「 ? 」
「どうせ看病とか言って、
の処へ行こうと企んでるんだろ?」
「企んでるなんて人聞きの悪い…。」
「…ほらよ!」
一心が喜助に白い袋を渡す。
「風邪薬と栄養剤だ。これ持ってけ。」
「…一心サン。」
「いいか、一言言っておくが、
に変なことするんじゃねえぞ!」
「だ〜か〜ら〜、人聞きの悪いこと言わないでくださいヨ〜。」
「俺の大事な家族だからな。」
そう言うと一心はニヤリと笑う。
何もかもお見通しな感じに少々不満を感じながらも
は黒崎家の親戚、一心の妻・真咲の従姉妹にあたる訳なのだから、
どーこー言われても仕方のないことではある。
「まあ、俺もアイツの具合が心配だからよ、誰かに様子を見に行ってもらえれば有難い。」
「えっ?」
「あんまり長居してんじゃねーぞ!」
「…はいナ。」
喜助は準備も考え、急いで浦原商店へ帰っていった。
「あ…39度2分…。」
熱には強い方なんだけど…これはちょっとシンドイかも…と
は体温計の数字をボ〜ッと見ていた。
あまり風邪はひかないほうなのだが、たまにこうした高熱の出る風邪をひくことがある。
家には市販の感冒薬と解熱剤くらいしかなかった。
(市販の感冒薬と解熱剤を両方一緒に飲んだら…やっぱりダメよねえ…。)
仕方ない…解熱を優先に飲んでおこうと思ったとき、
玄関のチャイムが鳴った。
黒崎家の人間は皆学校へ行っている時間だし、大黒柱は今診察中だ。
誰が来たか、インターホンのモニターを見に行きたいが、
関節は痛いし、頭がクラクラしてそこまで行くのがツライ。
なんとかベッドの上で起きあがるところまで出来ると、
玄関の外から声が聞こえる。
「
サン!!浦原ッス!!」
(喜助さん!?)
は相手がわかると、何とか玄関までたどり着き、
やっとの思いで玄関を開けた。
「…喜助さん…どう…したんです…か?」
「
サン!大丈夫ですか!?
一心サンに頼まれて薬を持って来たんス。」
「…あ…ありがと…う…ございま…」
お礼を言おうとして、頭を下げたら、そのままグラッと倒れそうになった。
喜助は慌てて
を支えると、あまりの身体の熱さに驚いた。
「ひいサン!!酷い熱じゃないッスか!」
「え?はぁ…すみ…ま…せん…。」
熱のせいか、
の返事は会話になっていない。
「
サン、ちょっと失礼!」
喜助は
を抱え直すと部屋の中…ベッドへ彼女を運んでいった。
彼女をベッドへ寝かせ、「ちょっと台所を借りますネ」と言って喜助は奥へ消えていく。
しばらくすると、色んなものをお盆に乗せた喜助がニコニコと笑顔で戻ってきた。
「一心サンからの薬もあるんですが、他にも色々持ってきたんスよ〜。」
まずは、何か食べてからでないと…と言って、喜助はお粥の用意をしている。
「…喜助…さん…、そのお粥…は…?」
「テッサイに作ってもらったのを持ってきたんスよ。
食べやすいように、温め直さずにぬるいままにしてあります。」
起きあがれますか?と言いながら、喜助は
の上半身をゆっくりと起こした。
「一口でもいいから食べて下さいネ。」
「…は…い…。すみませ…ん…。」
「
サン、さっきから『すみません』しか言ってないッスよ(笑)」
「え?あ…、すみま…」「ほら!また『すみません』。」
「あ…ホントですね… フフ… ゴホゴホッ!!」
笑顔の喜助に釣られて、笑おうとした
は、お粥にむせて咳き込んでしまった。
喜助は慌てて彼女の背中をさする。
「だ、大丈夫ッスか!?」
「は…はい…。ありがとう…ございます…。」
はお礼を言って喜助の顔を見ると、真剣に心配している顔がそこにある。
しかも今日はめずらしく帽子を取っている彼の顔。
見たこと無いわけではなかったが、ほんの数回しか見たことのないその柔らかな金髪のような
蜂蜜色の髪と端正な顔を見て「喜助さんは、本当にカッコイイんだなあ…」とぼんやり思ってしまった。
「それじゃあ、薬の準備をするッス。」
「…喜助さん。」
「何スか?」
「私のマンション…よくわかりましたね。」
「へ?あぁ、何となくの場所は知っていたんスけど、詳しくは一心サンに聞きました♪」
ウソです。すでに知ってました…(喜助 談)
「わざわざ…ありがとうございます。」
「いえいえ♪アタシも心配だったし、お節介と思いながらも来ちゃいました♪」
「私が休んだと…いうのも一心兄さんから…ですか?」
「今朝、散歩で黒崎医院の前を通ったら、一心サンが病院の外を掃除してまして。」
「一心兄さんが掃除を!?」
「ハイ、その時に知りました♪」
「そうなんですか…。皆さんにご迷惑をかけてしまったんですね…。」
「具合の悪いときはお互い様ッスよ。それよりも薬、飲んじゃいまショ。」
「はい…。」
喜助は
の上体を起こし、薬を飲ませる。
そして再び寝かせると、準備していた氷枕と濡らしたタオルを
の頭にあてた。
「この氷枕は…?」
「これも家から持って来たんス♪
頭を冷やす物があるかどうかわからなかったから。」
「…なにもかも完璧に…準備してくださったんですね…。」
「もしも、準備している物が不要だったら、黙って持って帰ってたッス(笑)」
「喜助さんが看護師に見えてきました…。」
「本物の看護師サンにはかなわないッス。」
「いいえ…私にとって喜助さんは看護師です…。」
は紅い顔をしながらそう言うと、喜助に向かってニコリと微笑んだ。
熱で辛いはずなのに、真っ赤な顔で自分に笑顔を向けてくれる
がたまらなく愛しく思えたが、
その思いを見せないように、気付かれないように、
から自分の顔が見えないように、
喜助は慌てて布団をかけ直してやる。
「沢山眠って、早く良くなるんスよ。」
「…はい…… …あの……。」
「 ? 何スか?」
「私が眠るまで、そばにいてもらってもいいですか?」
布団から指だけが出ている
の手は、
布団をかけ直したときに触れたであろう喜助の甚平の裾を掴んでいた。
具合が悪いときは心細いもの。
ましてや独り暮らしの
は、更に心細いのだろうと喜助は思う。
それと同時に自分の想い人が自分を頼ってくれるのがとても嬉しかった。
「もちろんッス。だから安心して眠ってください。」
甚平の裾を掴んでいた
の手をとり、
自分の両手で
の手を包みつつ、子供を寝かしつける時のように、
ポンポンと手にリズムを付けながら、喜助はベッドの横に座った。
「手、熱いッスね…」
「喜助さんの手は…冷たくて…気持ちいいです…。」
「さっき、氷枕を触ったからッスね…きっと…。」
「…………」
「…
サン…?」
薬が効いてきたようで、
は眠ってしまったようだ。
まだ呼吸が辛そうで顔も紅いが、さっきよりは少し落ち着いたように見える。
喜助は
が眠ったのを確認すると、額のタオルを交換するために台所へ行く。
タオルを絞りなおし、
の額の髪の毛をかきわけると
いつもよりも幼く見える彼女の額に軽く唇を落とし、タオルを乗せた。
「気弱になっている
サンも可愛いと思いますが、
早く治って、いつもの
サンに戻ってくださいな…。
心配で帰れないじゃないッスか…。」
喜助は、ベッドを背もたれに、自分も少し眠った。
FIN :*:・。,☆゚'・:*:・。・:*:・゚'☆,。・:*:*:・。,☆゚'・:*:・。・:*:・゚'☆,。・:*
が眠って3時間経ちました…。
喜助「
サン!目が覚めましたか?」
「あ…喜助さん…。」
喜助「具合はどうッスかね?」
「…少し熱が下がってきたみたいです。」
喜助「そりゃあヨカッタ♪」
「喜助さん、私が起きるまでずっと此処に?」
喜助「ハイ、アタシもうたた寝してたんスけどね…。
サンが眠ったのを確認して帰ろうかと思ったんスけど…」
「 ? 」
喜助「アタシが帰るとき、この部屋の鍵を掛けてもらうのに、
サンを起こさなくてはイケナイと思いまして、
せっかく眠り始めた
サンを起こすのも野暮だと思ったんス…。」
「 ! 」
喜助「なので起きるまで、此処でうたた寝してまシタ♪」
「………何から何まで本当にすみません!(TДT)」
、布団から起きあがって、布団の上で土下座しようとする。
喜助、慌ててそれを止める。
喜助「いいんスよ!アタシはいつもヒマしてますし、
皆もアタシが此処で
サンの看病をしているのは承知してることッスから♪」
「…ごめんなさい…」
喜助「ほおら、また謝ってるッスよ。本当によく謝りますねえ(笑)」
「………」←すかさず「すみません」と言おうとしたが、止めた(笑)
喜助「それじゃあ、アタシはこれで。」
「喜助さん、本当にありがとうございました。」
喜助「治ったら、アタシん処で『快気祝い』といきまショウ♪」
「『快気祝い』…。そんな大げさですよ(笑)」
喜助「それじゃあ、楽しみにしてるッスよ♪」
帰る途中の喜助、
喜助「おでこにチュウをゲット!!!」
独りガッツポーズ!!(笑)