大切な人・前

















「ハイ…?」

「なんかアチコチ具合が悪いみたいで。」

サン…そうじゃなくて…。」



浦原商店に遊びに来ていた のクチから出てきたのは、
最近よく来る患者の話。



「病院へ来ては、『お腹が痛い』『頭が痛い』と毎日来るので、
 『一度大きな病院へ行って検査して貰った方が…』って言ったんです。」

「…はぁ…。」

「でも、患者さんは、大きな病院が苦手で、この病院でなんとかならないのかって言うんです。」

「…あの… サン?」

「はい。」

「その患者、少し怪しいと思うんスけど…。」



喜助はお茶をすすると、溜息と一緒に に問うた。



「怪しい…ですか?」

「ハイ…、話を聞いてると、症状は大したことなさそうですし、
 毎日、黒崎医院へ来ても他の病院は行きたがらない…そうッスよね?」

「はい…。」

「一心サンは何て言ってるんスか?」

「『他の病院を紹介してやる』ってやはり言ってるんですけど、
 患者さんがいつも断るし、かといって来た患者さんを追い返すわけにも行かなくて…。」



喜助は開いていた扇子をパチンと閉じると
にあらためて聞いてみた。



サン、その患者と症状の話以外で喋ったことありますか?」



すると、 は「そうそう!」といった顔をして喜助に言った。



「診察が終わると必ず、『少し楽になった』って言って、受付でずっと喋っているんです。」

「ほほう。で、どんな内容の話を?」

「『看護師は大変な仕事だ』とか、『休みの日は何してるのか?』とか、『近所に住んでいるのか?』とか…。」

「…ちなみに、その患者、男性…ッスよね?」

「はい。」

「年齢は?いくつぐらいッスか?」

「…たしか…30代前半…くらいだったと思います。」

「…ほぼ決定ッスね…。
 今後、その患者に色々聞かれても、プライベートな内容は絶対に答えないでくだサイ!」



喜助に自分の顔近くまで寄られ、
「いいですね!必ずッスよ!」とかなりの形相で念を押されたため、
はちょっと顔を引きながらも



「は…はい、喜助さんの言うとおりに…。」



とうなずいた。


















翌日、あの患者はいつも通りにやってきた。



「看護師さん、こんにちは…。」

「こんにちは…。今日はどうしましたか?」

「なんか…こう…頭がスッキリしないんですよ。」

「…熱は計ってきてます?」

「熱は平熱でした。」

「そうですか…では呼ばれるまでお待ち下さいね。」












「黒崎先生、いつもの患者が来ました…。」

「まーた来たのか〜。困った奴だ…。ところで !」

「はい。」

「あの患者、会計の時にずっとお前に話しかけてんだろ!」

「…うん。」

「何、話してんだ?」

「 ! その件なんだけど…。」


は、同じ事を喜助にも聞かれ、同じ内容を彼にも話したと伝えた。



「そうか、じゃあ浦原は、この件のこと知っているんだな?」

「ええ、あの患者に聞かれてもプライベートな内容は話すなと言われて…。」

「…それなら大丈夫だな…。」

「え?何が『大丈夫』?」

「あ、いや、なんでもねえよ。じゃああの患者を呼んでくれ。」

「はい、わかりました。」



は例の患者を診察室へ呼んだ。






















いつものように診察が終わり、会計を待つあの患者。
やはり に話しかけてきた。



「診察が終わると、なんとなく落ち着くんですけどね…。」

「やはり、施設の整った病院で精密検査をされたほうが良いと思うんですけど。」

「いや、ここの病院が性に合っていて、他の病院は行きたくないんですよ。」

「でも、ここは一般の開業医なので、治療にも限界があるんです。」

「大丈夫ですよ!こんなに素敵な看護師さんがいるし。本当に助かってるんです!!」




そう言うと、 の手を両手で掴み、



「アナタは本当に『白衣の天使』ですよ!!」



と言って、なかなか手を離して貰えなかった。



「あの、すみません、他の患者さんのご迷惑にもなりますので…」

「え、あ、すみません… さん。」

「え?」



は患者から自分の名前を言われて驚いた。
彼に自分の名前を言った覚えはない。
名札を付けているわけでもないし、しかも苗字ではなく名前を言われ、
さすがに戸惑った。



「なんで名前を…?」

「だって、黒崎先生がそう呼んでいるでしょう?」

「え?そ、そうです…ね…。」

「…先生の妹さんなんですよね…。あと、よく近くの古びた駄菓子屋さんに寄っていくでしょ?
 駄菓子が好きなんですか?通勤は歩きのようですけど、お近くに住んでらっしゃるんですか?」

「 ! 」

「ねぇ…何処に住んでるんですか?此処ではないですよね?」

「…なに…を…?」



例の患者に色々聞かれ、少しパニックになりそうになる…が、
奥の一心から「おーい!ちょっと手伝ってくれー!」と声を掛けられ、
我に返る。そして彼に薬を渡すと



「すみません、先生が呼んでいるので…。お、お大事に!!」



と言って、 は診察室へ消えた。
彼は、 から貰った薬の袋を、乱暴にポケットへ入れると
病院を後にした。





























「はあ…。」



病院の診察が終了し、 は後片付けをしていたが、昼間のあの患者の言葉が頭から離れない。



「…一体何なの!?」

「おーい! !」



診察室にいる一心に呼ばれ、 は顔を出した。



「例の患者、何か言ってたか?」

「ううん、別に他愛ない話だったよ。」

「…そうか。」



は一心に心配掛けまいと、今日の出来事を語らなかった。



「私、今日は早く帰るね。」

「なんだ、夕飯食っていかないのか?」

「うん、皆によろしく言っといて。」

「…そうか。帰り気を付けてな。」

「ありがと…。それじゃあ、お先に失礼します。」



一心は、病院の外まで を見送った。
の姿が見えなくなると、何かを探すかのように神経を集中させる。
そして目当てのものが確認できたのか、ニヤリと笑うと



「後は頼むぜ…浦原…。」



そう呟いて、病院の奥へ入っていった。






























(あの患者さん…ちょっと気味が悪いよね…。)



病院でしか会っていなかったが、今日の会話内容で一気に気分が悪くなる。
なんか嫌な予感もするし、早く帰ろうと足もだんだん速くなる。
浦原商店の前を通ると、昨日の喜助の言葉を思い出す。



「色々聞かれても、プライベートな内容は絶対に答えないでくだサイ!」



「私、個人的な事は答えなかったよ…ね?」と自分に問いつつ、
喜助の処へは寄らずに通り過ぎた。
自分のマンションが微かに見えてきて、「もうすぐだ」とホッとした矢先、
の前を遮る人の影。



「看護師さん!」

「えっ!?」

「ボクですよ〜、 さん。」

「あ、あの患者…さん!?」



目の前には、あの男。
ニコニコしながら のそばまでやってくる。



さんの家ってこの辺ですよね〜?」

「え?」

「…この辺までは分かったんですけど…そこからが分からなくて…。」

「……」

「教えてくれません? さんの家。」

「…なんで教えないといけないんですか!?」

「ボク、アナタの病院の患者ですよ〜。そんな言い方していいんですか〜?」

「…何を…。」

さん、あなたにボクの病気を治して欲しいんですよ〜!」

「!」



男は の手首を引っ張ると、そばの細い路地へ引っ張り込もうとした。
は抵抗するが、男の力には勝てるわけがない。



(き…喜助…さんっ!)



腰に手を回され、そのまま奥へ連れ込まれそうになる…その時、



















「こんな処で何してるんスかぁ!?」



















「喜助さん!!」

「…何だオメエ!?」

「ま、とりあえず、彼女から離れてくださいナ。」

「だから、オメエは何だって言ってるんだよ!」



男は を解放する気はないらしく、腰に手を回したまま自分の身体に の腰をぴったりとくっつけている。



「俺の女だ!何をしようが、オメエには関係ねえだろ!」

「関係あるんスよねえ。彼女はアタシの『大切な人』ッスから。」



喜助の口調は惚けたような感じではあったが、
眼は全く笑っていなかった…というよりは怒りに満ちていた。






 





「大切な人・後」に続きます。→→→→→→→→→→→→→→ NEXT  :*:・。,☆゚'・:*:・。・:*:・゚'☆,。・:*:*:・。,☆゚'・:*:・。・:*:・゚'☆,。・:*






夜一「前々から思っていたんだがの。」
喜助「何スか?」
夜一「お主が出てくるとき…そのいちいちもったいぶったような出現方法はなんとかならぬのか?」
喜助「ええ〜っ!?そおッスか〜?」
夜一「そうじゃ。」
喜助「(゚◇゚)ガーン」
夜一「今回の の件でも、奴が に触る前に出てくるとか。」
喜助「(!o!)オオ!」
夜一「それ以前に、奴が病院から出てきた段階でなんとかするとか。」
喜助「…な〜るほど!_〆(。。)メモメモ…」
夜一「メモをとってどうすんじゃ、全く。」
喜助「大丈夫ッスよ〜。 サンのことなら完璧ッスから♪」
夜一「 にアタックするのはまだまだ完璧ではないがの。」
喜助「ゲフッ!」
夜一「あ、アタック以前の問題か!」
喜助「_| ̄|○ガクリ」
夜一「女々しいのう。しっかりせんか!」
喜助「(−o−)y−゜゜゜゜゜」
夜一「これだから、 の気持ちにも気付かなんだ…(ボソッ)」
喜助「い、今、なんて!?!?!?!?」
夜一「知らぬわっ!(瞬歩)」
喜助「あぁっ!夜一サ〜ン!!(TДT)」