手荒れの良薬
















今晩は喜助さんの家でお鍋をご馳走になっていて、
今はその後片付けをテッサイさんとしている最中。
居間では喜助さんとジン太君とウルルちゃんがたぶん
ぼんやりと食後を過ごしているんだと思う。



「テッサイさん、お茶、入れますね。」

「すみませぬ… 殿。」

「こちらこそ、いつもお邪魔してすみません。」

「何を仰いますか!? 殿は店長の大事な方。
 私もジン太殿・ウルル殿も喜んで迎えております!」



テッサイさんの「店長の大事な方」という言葉に少しだけ反応。
大事な方の「大事」は色んな意味があるからなぁ…なんて思ったりもする。



「すぐに参りますので、 殿は居間の方へ。」

「はい、わかりました。」



私は皆のお茶を持って、居間へ向かった。


















「は〜い、お茶ですよー。」

〜、今日の茶菓子ってなんだ?」

「今日はお饅頭です。」

「ぃやった!!俺アンコ好きー!」

「コラコラ!ジン太。行儀悪いッスよ!」

「はい、ウルルちゃんもどうぞ。」

「あ、ありがとう…ございます…。」

サン、いつもいつもお土産貰っちゃってスミマセン。」

「いえ、こちらこそ、いつもお夕飯ご馳走して頂いてすみません。」

「なーに言ってるんスか〜! サンはウチの家族みたいなもんッスよ。」



喜助さんは本当に優しい。
きっと独り暮らしを心配して、ゴハンに誘ってくれてるんだと思う。
彼の言う「家族みたいなもん」っていうのは、どういう意味なのかなって、
さっきのテッサイさんの「店長の大事な方」同様いちいち反応。
こういう言葉に過敏に反応する私って、かなり重症なんだなと思う。



「そういえば、最近、黒崎家の方とは一緒にゴハン食べないんスか?」

「そんなことないんですけど、カリンちゃんもユズちゃんも中学生だし、
 一護はあんなだし。夕飯はさすがにバラバラになってきた…かな?」

「そうッスか〜。」

「でも一週間に1〜2回位は一緒に晩ご飯を食べてます。
 それに朝ご飯は、たぶんユズちゃんが作ってるから、向こうは皆一緒だと。」

「それじゃあ、 サンの夕飯はウチで一緒に食べるといいッスね!」

「は?…いえ、もう、ご馳走になってます…ケド。」

「違いますよン。毎晩ウチに来るといいッスよ♪」

「ええっ!?それはいくらなんでも、図々しい…。」



ただでさえ、毎週1〜2回のペースで、夕飯を頂いているというのに、
それを毎晩だなんて…。それはいくら私でも…。



「…俺は構わねーぜ!」

「私も…一緒に食べるの…楽しいです。」

「食卓が華やぎますな。」

「ほぉら、 サン♪皆もそう言ってることですし。」



喜助さん!?う、嬉しいんですけどね…。
家族でもない私が毎晩ゴハンを食べに行くというのは、ちょっと…。



「 ? どうしました? サン。」

「あ、いえ…では、なるべくご迷惑がかからない程度に…。」

「迷惑だなんてなーんにもかかってないッスよぉ♪」



この喜助さんの優しさが、たまに私を錯覚に陥らせる。
…もしかしたら、喜助さんは私のこと…って。

でもこれは言えないし、言いたくない。

この曖昧で苦しくなるような、それでいて
居心地の良い関係を私は崩したくはない。

私が喜助さんに想いを伝えたことで、
変に意識され、気を使われ、この空間が壊れることこそ
私には考えたくもないことなんだ。














コタツに手をずっと入れていたら、手がもの凄く痒くなってきて、
コタツの中でモゾモゾと手をかき始めた。
私は冬に手のあかぎれや肌荒れが酷くなる。
仕事が看護師なので、あまり薬を塗って仕事をするわけにはいかない。
夜、自宅に戻ったときだけ薬をつけてはいるんだけど、
市販の薬はあまり効かないし、黒崎医院は皮膚科じゃないから、
薬もあまり期待はしていない。(一心兄さん、ごめんなさい)
だから、手が温まると痒くなるし、かといって寒いままにもできないし。



「ところで サン、さっきからコタツの中でなーにやってるんスか?」

「あ、すみません…手荒れが痒くなっちゃって…。」

「ちょっと見せてもらってもいいッスか?」



私はコタツから両手を出して、喜助さんに見せた。
あまり綺麗な手ではないし、あかぎれが酷いので見せるのは恥ずかしかったんだけど。



「ありゃあ…これは…痛そうッスねぇ…。」

「もう昔っからなんです。冬だけなんですけどね。」

「薬…塗ってるんスか?」

「仕事柄、あまり塗れなくて。だから夜、寝る前に塗ってるだけです。」



喜助さんは私の手を取ると、じっと手を見つめていた。
そして、私の顔を見るなり、ニコリと笑うと、



「ちょっと待ってて下さいネェ。」



と言って、居間を出ていってしまう。
そうしたら今度は、ジン太君とウルルちゃんが「もう寝る」と言って居間を出てしまい、
テッサイさんも



「それでは、私も自室へ戻りますかな。 殿、ごゆるりと。」

「え!?テッサイさんも…。オ、オヤスミナサイ…です…。」



居間には私だけになってしまった。





























「お待たせしちゃってスミマセン。」



喜助さんが戻ってきたのは、それから10分程経った頃。



「皆、部屋へ帰っちゃいましたか。」

「はい…。」

「あ、これなんスけど…。」



見せてくれたのは、小さなピルケースみたいな入れ物。
それを開けると、中には軟膏…みたいなものが入っている。



「ウルルが、やっぱり冬になると手荒れが酷いんス。
 だからテッサイに頼んで塗ってやってるんスけどね、これが結構効くんスよ。」



「ハイ、手ェ出して♪」と喜助さんに言われ、あかぎれだらけの手を喜助さんにあずけた。
喜助さんは少し腕まくりをしてから、私の手の甲にその軟膏を多めに乗せる。



「ただね、薬を塗ればいいってもんじゃあないんス。」

「 ? 」

「マッサージをするつもりで、擦り込むんスよ。」



そう言うと喜助さんは、私の手をゆっくりとマッサージするように軟膏を擦り込みはじめた。
これがビックリするほど気持ちがいい。
自分で自分の手を揉んでもこんなに気持ちが良くなることはないのに。



「マッサージすると、血行がよくなります。そうすれば手の冷えも大分解消されるはずッス。」

「あ…、なるほど…。」

「この薬は1回の使用で劇的に良くなりまス。ただし強いので1日1回、
 一週間くらい続ければ、あかぎれなんて治っちゃいますよン。」

「そうですか…」「だから!」

サンは明日から一週間、毎日此処に来なくてはイケマセン。」

「へ? 一週間…ですか?」

「はいナ。自分で自分の手のマッサージなんて気持ちよくないッスよ♪」



喜助さんは、嬉しそうにマッサージを続けだした。
私はそれをしばらく黙って見ていたんだけど、
喜助さんの指って、関節が太くて指が細いんだ…。
そして手自体が大きくて…。とっても男らしくて綺麗な手だなって思った。
男の人なのに「綺麗な手」っていうのも変…かな?



「 …サン、… サン。」

「あ、はい!」

「アタシのテクニックで、あまりにも気持ち良すぎちゃいました?」

「え?あ、はい…じゃなくて…えっと…。」

「…今日は、これで終わりッス。」



喜助さんが言うには、これで一晩眠ると、あかぎれ部分がかなり治ってるらしい。
…何処の薬なんだろう?って思ったけど、聞くこともないかと思ってあえて聞かなかった。


















「それでは…また明日の夜、宜しくお願いします…。」

「いつでもお待ちしてますよン♪」

「あの…喜助さんは、手荒れとかしないんですか?」

「そうッスねえ…たまーにする程度ッスかね?」

「…その時は、私に喜助さんの手、マッサージさせてください。」

「え?」

「私もマッサージの仕方を覚えたいですし、それに喜助さんに何のお礼も出来ないから…って、ダメですか?」

「…いえ…とんでもない!!こちらこそ宜しくお願いするッス。」



喜助さんの顔が少し紅かったような気がしたのは…?





















帰る際、喜助さんは店の外まで出てきてくれた。
でもまだ私の手が気になるみたい。



「もう大分あかぎれとかが引っかからないと思うッスよ。」

「そうですか?」

「ほら…って、うーん…わかりにくいッスかねぇ。」



喜助さんは私の指先を自分の親指の腹で確認した。
でもいまいちわかりにくいようだ。



「あ、こうすればよくわかるんです!」

「どうやって…?」



私は、自分の10指の指先を、喜助さんの両頬にあてて少し動かしてみた。
すると目を見開いて驚く喜助さんの顔。



「ね、頬で触るとよくわかるでしょ。」

「え?あ… な、なるほど……… で、 サン!」

「 ? はい。」



今度は喜助さんが私の手を掴んで一言。



「…まーたこんなに手が冷たいッス! ったく…。」

「き、喜助さん!?」



掴まれた私の手は、喜助さんの息で温められて、喜助さんの手の中で擦られた。
身も心も温かくしてくれたのかな…なんて都合のいいことを考えてしまう…。



















「では…おやすみなさい…喜助さん。」

「帰り道、気をつけてくださいネ。」

「あ、はぁーい。」



歩いている途中、振り返るといつものスタイルの喜助さん。
手を振ったら、とても優しい笑顔で手を振りかえしてくれた。


















明日から一週間、手荒れのお陰で私の手は喜助さんの手と繋がることになる。
もちろん、手荒れの薬は素晴らしい効き目だけど、私にとっての良薬は喜助さんなんだと思う…。











FIN :*:・。,☆゚'・:*:・。・:*:・゚'☆,。・:*:*:・。,☆゚'・:*:・。・:*:・゚'☆,。・:*






夜一「寒いんじゃから、早く帰らせてやればいいものを!(--#)」
喜助「えー!だって少しぐらいイチャイチャしたいじゃないッスかぁ。」
夜一「イチャイチャって、お主、まだ と付き合っておらぬじゃろう!?」
喜助「…そ、そこを突かれると辛いッス_| ̄|○ガクリ」
夜一「しかも、あの薬!」
喜助「…ギクリ。」
夜一「マッサージは…まあ良しとしよう…しかしじゃ!」
喜助「な…なんスか!?」
夜一「一週間もかからんじゃろうが!」
喜助「あ!バレちゃいましたぁ!?」
夜一「たわけ!」
喜助「3〜4日で大丈夫ッス…あの薬は♪」
夜一「そうか。それではその旨を に伝えてこよう。」
喜助「そ!それだけは!!どうか!!」
夜一「んん!?なんじゃ?」
喜助「アタシのせっかくの計画が…台無しッス(TДT)」
夜一「そんな計画せずとも、毎晩メシを食いにくるのであろう? は。」
喜助「…あ!そうでした…ヾ(´▽`;)ゝエヘヘ」
夜一「ったく!ところで、喜助!」
喜助「なんスか?」
夜一「 には夕飯誘って、何故儂は誘わぬ?」
喜助「そりゃあ決まってるッスよ」
夜一「?」
喜助「夜一サン、食べ過ぎッス♪」
夜一「……チッ!」
喜助「あぁ!今、舌打ちしたッスね!!」
夜一「じゃ、 にさっきの件、言ってくるとしようかの。」
喜助「ひ!酷い!!夜一サン!それは八つ当たりッスよ〜〜〜〜ヽ(`Д´)ノウワァァァンン」