花とバレンタイン









は浦原商店へ遊びに来たのだが、店には客が来ていたので、
居間で待つことにした。
しばらくして客も帰り、喜助が居間へ戻ると がいない。
そして卓袱台には一冊の本が置いてある。



「この本は何スか?」



駅前の本屋のカバーがしてあって、何の本かはわからない。
手にとってパラパラとめくると



「…花言葉の本?」

「あ、喜助さん、お店の方は終わったんですか?」



振り返ると



「今、奥のテッサイさんにご挨拶をしてきたところです。」

「この本は、 サンのですか?」

「はい。花言葉の本なんですけど、結構面白くって…。たとえば…。」



は花言葉の本をめくった。



「喜助さんの誕生日の花は『ユリオプスデージー』。花言葉は『円満な関係』。」

「『円満な関係』ッスか〜。」

「でも花も花言葉も本で全く違うものになってしまうので、これが絶対というわけではないようです。」

「やっぱり女性はそういうの、気にするするんスかねぇ?」

「気にする…というか、花の名前もわかるし、なんか楽しいですよ。読むの♪」

「そういうもんなんスか〜。」

「はい♪」



は喜助にニコリと笑って返事をした。
そんな彼女を見て「アタシは サンと『円満な関係』になってるんスかねえ」と
心の中で苦笑した。


































そんな彼女が今気に入って読んでいる花言葉の本を
喜助は、駅前の本屋で買ってみることにした。
花言葉に興味があるわけではない。
ただ がどんな本を読んでいるかに興味があっただけで、
店へ戻り自室に入ると、ゴロンと横になって本を開いた。
そこには1年分の花の写真と花言葉が1ページずつ載っていて
花の時期や育て方、原産国等、細かく書いてあった。



「アタシの誕生花って…たしか『ユリオプスデージー』って言ってましたね…。」



12月31日のページを見るとたしかに『ユリオプスデージー』。



「え…っと、他の花言葉は…『明るい愛』『無邪気』…スか…。」



意外に面白いと思い、1月1日からずっと読み始めてしまった。







































それから数日後の今日は2月14日「バレンタインデー」。
が夜に大きめな紙袋と共にやってきた。



サン!何スか?その紙袋?」

「これは浦原商店さんの商売敵のものですヨ。」



は居間の卓袱台に紙袋の中身を広げる。



「はい、これはジン太君とウルちゃんへ。」

「これってチョコレートケーキじゃねえか…。」

「そうよ。バレンタインにチョコレートケーキ。ウルルちゃんのも半分入ってるからね。」

「なんでウルルにもなんだよ!」

「バレンタインってね、男性も女性も花やケーキ・カードなどのいろんな贈り物を、
 恋人や親しい人に贈ることなんだよ。だからウルルちゃんにも♪」

「…ふうん…。」

さん…ありがとうございます。」

「それからこれは、テッサイさんに。」

「私にもくださるのですか。ありがとうございます。」

「テッサイさんには、いつもいつもお世話になりっぱなしで、こんな小さなお菓子で申し訳ないのですけど…。」

「いえいえ、嬉しいですぞ!」

「そしてこれは…夜一さんに渡しといて下さい。」



夜一用のケーキは、これまた大きな1ホール。



「さっきのチョコレートケーキじゃ、小さいって言われると思って。」

「…す…すげえな…この箱の大きさよぉ…。」

「ジン太君、食べたかったら夜一さんに聞いてね。」

「…い、いや…それはいいや…。」



ジン太は首を左右にぶんぶん振った。



「それから、これは…喜助さんに…。」



喜助の分は、 自身のバッグから出す。



「アタシにもいただけるんスか?」

「もちろんです!!」

「嬉しいッスねぇ。ありがとうございます。…開けてもいいッスか?」

「はい。」



品の良い綺麗な箱を開けると、チョコレートが10粒。



「これ、ブランデーボンボンなんです。」

「洋酒入りのチョコレートッスか。」

「喜助さん、チョコレートが好きかどうかわからなかったのと、
 お酒、好きだからどうかなって思って。」

「あまり甘すぎるのは苦手なんスけど、これなら大丈夫だと思うッス。」

「よかった。」

「1粒1粒大事に食べるッスよん♪」



そう言って、喜助がチョコレートの蓋をしようとしたら
薄い、紙のようなものが蓋の内側から落ちてきた。



「 ? 」



見ると花のようだ。
花の色は青、とても綺麗な押し花。



「…パンジーの押し花ッスか?」

「はい、とっても綺麗だったので…。」

「本当だ。綺麗な花ッスね。」



喜助はその押し花も大事にチョコレートの上に載せ、箱の蓋をした。



サン、ひと月後のホワイトデー、期待しててくださいネ。」

「期待って…。」



は嬉しかったが、苦笑するしかなかった。














途中、夜一もやってきて、ケーキを渡す。



「何!?儂にもくれるのか?」

「いつもお世話になってますから。」

は優しいのう♪…それに比べて…。」

「なぁんスか!?」

「喜助ェ、儂に世話になっている自覚はないのか?」

「どっちかって言うと、アタシの方がお世話して…」

「なぁにぃ!?(ギロリ)」

「い、いえ…いつもお世話になってるッス(大汗)」



その日の夜は、皆でケーキを食べまくり。
夜一がなんと喜助・テッサイに「少しだけだぞ」と言って
自分のケーキを分けていた。






































夜も遅くなり、 が帰る準備をする。



「あ、 サン!送ります。ちょっと待ってて下さいナ。」

「え?あ、大丈夫ですよ!喜助さん。」



喜助は、羽織をとりに自室へと向かった。
そして から貰ったブランデーボンボンも部屋の机に置く。



「そういえば、あのパンジーの押し花、花言葉って何スかねえ…。」



そばにある花言葉の本をめくると









「パンジーの花言葉 『私を想ってください』」









「…私を…想って…ください…。」



その花言葉を見て、喜助は胸が熱くなる。



(この花言葉が、アナタの本当の想いだとしたら…)



喜助は から貰ったブランデーボンボンを2粒、
ティッシュに包み、羽織の袂に入れて の元へ戻った。








































結局 は、喜助にマンションの前まで送ってもらうことになった。
2月の半ばはまだまだ寒く、手袋と帽子とマフラーをグルグル巻きにしている
喜助の、相変わらずな軽装に身震いがする。



「喜助さん!その格好で寒くないんですか!?」



は、自分のマフラーをほどいて、喜助に巻こうとした。



「ああ!駄目ッスよぉ! サンが風邪ひくじゃないッスか〜!」

「もうすぐマンションに着きますから大丈夫です!だから!」



そう言って、 は喜助の首に自分のマフラーを巻いた。



「いつも送って下さってありがとうございます…。本当に風邪ひかないでくださいね。」

「大丈夫♪意外に丈夫なんスよ、アタシ。」

「それなら良いんですけど…。」

「でも今日は寒いッスねぇ。こんな時はほんの少しだけ酒を入れると身体が暖まるんスよ♪」

「そうですね…、飲み過ぎちゃ駄目ですけどね(笑)」

サン、ちょっと眼を閉じてもらってもいいッスか?」

「 ? はい…。」



喜助は羽織の袂から、さきほどのブランデーボンボンを取り出す。



サン、眼を閉じたまま、ちょっとだけ口を開けてくださいナ。」

「???」



喜助はボンボンを1粒、 の口に入れた。



「 ! これって、ブランデーボンボン!?」

「さっきアナタから戴いたものなんですが…おすそわけッス♪」

「…美味し…。自分で贈っておいてなんですけど。」

「それでは残りの9粒は、アタシが美味しく食べちゃいますから。」

「お陰で、暖かく眠れそうです。ありがとうございます…喜助さん。」

「いえいえ、それじゃあオヤスミナサイ… サン。」

「はい、おやすみなさい…喜助さん。」



マンションの前で、喜助と は別れた。






























喜助は、 が部屋の電気をつけたのを確認すると踵を返して店へと戻る。
帰る途中、1粒残ったブランデーボンボンを自分のクチに入れた。



「ドサクサに紛れて、 サンの唇、触れちゃったッス。」



その触れた指を自分の唇にあてる。



「あの押し花の花言葉、『私を想ってください』というのは
 そういう意味で入れて下さったんスかね…?」



もし…そういう意味で入れてくれたとしても、
アナタのクチから聞けない限り、怖くて信じられないんスよ…。
アタシ、結構小心者なんで…ねぇ。



















首には、 が巻いてくれた彼女のマフラー。
その彼女の残り香に酔いしれながら、足早に店へと戻っていった。










FIN :*:・。,☆゚'・:*:・。・:*:・゚'☆,。・:*:*:・。,☆゚'・:*:・。・:*:・゚'☆,。・:*






夜一「喜助!お主『逆ちょこ』という言葉を知らぬのか?」
喜助「まだチョコねだってるんスかぁ?」
夜一「当たり前じゃ!何故、 がくれるのに喜助からは何も来ないんじゃ(--#)」
喜助「そんな…怒らなくても…(^^ゞ(^^ゞ
   さっきも言いましたけど、普段の夜一サンに対するアタシの貢献度はスゴイと思うッスよ。」
夜一「………」
喜助「む、無言ッスか!?」
夜一「砕蜂なんてスゴイぞ!儂が『砕蜂は儂にちょこはくれるのか?』と話したら、
   巨大なはあとのちょこのカタマリをくれたんじゃ。」
喜助「あ〜、砕蜂サンらしいッス(苦笑)」
夜一「『夜一様に対する私の真の気持ちですvv』って言っての。カワイイ奴じゃ♪」
喜助「それは…夜一サンが思っている以上の気持ちがきっと入ってるッスねぇ(^^ゞ」
夜一「 ? 何じゃ?何か言ったか?」
喜助「いーえ、砕蜂サンは夜一サン命ッスからねぇって言っただけッスよ。」
夜一「儂も元部下に好かれて嬉しい限りじゃ♪」
喜助(元部下…ねえ…(^^ゞ(^^ゞ(^^ゞ)
夜一「お!丁度良い処に…そいふぉーーーん!!」
砕蜂「よ、夜一様!!」
喜助「丁度良い処じゃなくて、さっきからずっとつけてきたんじゃあないッスかね…。」
砕蜂「何か言ったか!浦原喜助!!(--#)」
喜助「いえいえ(^^ゞ(^^ゞ」
夜一「砕蜂は儂にちょこをくれるのに、喜助は儂にくれなんだ!」
砕蜂「夜一様!あのような輩からちょこなぞ貰うことございません!
   いっそのこと抹殺した方がよいのです!」
喜助「相変わらず物騒なことを〜(^^ゞ」
砕蜂「夜一様からの恩を仇で返しおって〜!貴様!万死に値する!」
喜助「ところでぇ、砕蜂サンはアタシにチョコはくれないんスかね?」
夜一「そうじゃ、砕蜂、この喜助にもちょこをあげてやれ!」
砕蜂「えーーーーーーーーっ!?!?!?夜一様ぁ…(泪)」
夜一「好いておるんじゃろ?喜助のこと。」
砕蜂「(゚Д゚)ハァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァア?」
喜助「そぉだったんスかぁ〜♪知らなかったッスよぉ〜(笑)」
砕蜂「浦〜原〜喜〜助〜!!もう殺す!!!」
喜助「(゚∀。)ワヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!」
夜一「砕蜂め、テレおって!!かわいいヤツじゃのぉ♪」