諦めと嫉妬と














「…何コレ?」



今日は土曜日で、仕事も早く終わる日。
は昨晩、喜助に「仕事が終わったら遊びに行く」と言っておいたので
いつものように浦原商店へ向かっていたのだが、何故だか店がにぎわっている。

店を覗くと、これまたこの店に似つかわしくない若い女性だらけで、
喜助をはじめ、テッサイ、ジン太、ウルルも店の対応に追われている。

滅多に見ない光景のせいか、 は店の引き戸の前でボーッと突っ立ったまま。
それに気づいたテッサイが(裏から入ってくだされ!)と店の奥を指差した。



「浦原商店のバーゲンセール?」

「いやいや、参りました…。」

「テッサイさん、先程はありがとうございました。」



は勝手知ったる何とやらで、テッサイにお茶を入れた。



「おお、すみませんな。」

「お店、何かあったんですか?」

「実は、空座町のタウン情報誌に店長の写真が出まして…。」

!コレだ!」



店から戻ってきたジン太が手にしているのは、駅に置いてある無料のタウン情報誌。
見ると、「今月の街のイケメン君☆」というタイトルと共に
喜助の横顔が1ページ全面に載っている。
しかも帽子を被っていない状態。
ホウキの柄が写っているので、掃除をしているときにでも撮られたのだろうか。

記事を読んでみると…





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今月の空座のイケメンは
駄菓子屋を営んでいる彼☆彡

古いカンジの駄菓子屋に合わせた服装なのか
普段は甚平に下駄を履いて、頭にはストライプの帽子を着用。
見た目、ちょっと怪しそうに見えるけど
帽子を取ると、これが超〜イケメン☆
彼に会いたい人はお店でcheck!!

◆浦原商店
 住 所/□□□□□□□□□□□□
 定休日/不定休

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「…なんですか?これは??」

「さあ…私にはさっぱり…。」

「店長が言うには、知らないうちに撮られたみたいだぜ?」

「それで、このお客さんの数…なんだ。」



は台所から店をうかがう。
先程よりは客は減ったものの、やはりお客は若い女性ばかり。



「…なんか喜助さん、嬉しそう…。」

「そりゃあ、イケメンなんて言われて、あんなのに載っちまったらよー。」

「ジン太どの、クチが過ぎますぞ!」

「だって、やっぱり嬉しいんじゃねーの?店長だってさ…あっ!ヤベッ!!」



ジン太が の表情を見て、やっと気付く。
しかし は、



「ジン太君の言うとおり、嬉しそうよね…。」

「そ、そんなことねーよ…。」

「鼻の下、伸ばしちゃってね…。」

…。」





























「いや〜、参ったッス〜♪」



閉店時間になり、喜助とウルルが居間へ戻ってきた。



「このタウン情報誌の威力はスゴイッスねぇ。」

「…明日もお客さん、沢山くるんですか?」

「ウルル〜、そりゃあそうッスよ♪何しろ『ハンサムエロ店主』改め『イケメンエロ店主』ッスからね。」

「ハンサムでもイケメンでも『エロ店主』は変わらないのね。」



が喜助・ウルルのお茶を持ってきた。



「あ、 サァンvいらっしゃ…」「ハイ、ウルルちゃん、お茶ドーゾ♪」

「あ…ありがとうございます…。」

「はい、喜助さん、お茶どうぞ!(--#)」



は少し乱暴に喜助の湯飲みを置く。



…サン??」

「今日は店も混んでたみたいだし、喜助さん達もお疲れのようだから…そろそろ私もお暇しますね。」

「ぶっ!な、何言ってるんスか!?」



喜助はお茶を吹き出しそうになっている。



「明日は サン、お仕事お休みでしょう?泊まっていってくださいよ!」

「………」



二人の遣り取りを見てテッサイが、



「さぁ、夕飯の準備を致しましょう。 殿も手伝ってくれますかな?」

「あ、はい!もちろん。」



は喜助に返事をしないまま、台所へと消えていった。





























夕飯の準備も終わり、皆が席に着くと、 の姿がない。



「あれ? サンは〜?」

「… 殿は食欲がないと言われて、客間で横になってます。」

「え? サン、具合悪いんスかっ!?」



喜助が客間へ向かおうとすると、テッサイがそれを止める。



「店長、差し出がましいことを言うようですが…。」

「 ? 」

「例の…タウン情報誌の…。」

「アタシが載っているヤツッスか?」

「俺が…余計なことを言ったから!」

「ジン太…?」



喜助は、テッサイ・ジン太から事の詳細を聞く。



「…そうッスか…わかりました…。」



喜助は帽子を深く被りなおした。



















 *



















「はぁ…。」



客間の端に布団を敷いて、 は頭まで布団を被っていた。
普段、 が浦原商店に泊まるとき、寝る場所は喜助の部屋の喜助の隣であって、客間ではない。
しかし今日は気分的に喜助の顔を見ることが出来なくて、
は一人客間で眠ろうとしたが、なかなか眠ることが出来ないでいた。



「喜助さん…カッコイイもんね…。モテないワケがないじゃない…。」



それは喜助の格好良さへの諦めと、自分の嫉妬心への苛立ち。
決して喜助が悪いわけではないのだ。
それなのに先程といい、今といい、喜助への態度は何なのだ?と
自分への怒りが増す。



「はぁ…。」

「そんなに溜息ばっかり吐いてると幸せが逃げちゃいますよん。」

「………」

サン…顔を見せちゃあもらえませんかねぇ?」

「…イヤです…。」

「アタシが女性のお客さんの前でデレデレしてたのが気に入らなかったんスか?」

「…それもありますけど……。」

「けど?」

「そう思ってしまう私の嫉妬がみっともなくて、情けなくて…。」

「でも嬉しいッスよ。それだけアタシのこと想ってくれているって事ッスから。」



の声が途絶えた。
喜助は「仕方ないッスねぇ…」と呟くと
を被っている布団と一緒に持ち上げた。



「え!?何?」

「こんな寒い客間で一人眠ったら、淋しいし、風邪ひいちゃいますよ!」

「離して!喜助さん!!」

「イヤッス!」



布団で簀巻き(すまき)にされながら、 は喜助に運ばれて
喜助の自室へと連れて行かれた。
そして畳の床に静かに置かれると、喜助も「ヨイショ」と のそばへと座った。



サン…。」

「………」

「よく考えてみれば、アタシがもし サンの立場なら…やはり嫉妬して怒るのも当然のことで…」

「違うの!」



は布団から頭と眼だけを出す。



「…たしかに嫉妬もしたし、嫉妬した自分に苛立ったりもしたんだけど…。
 喜助さん、カッコイイからモテるでしょ。もしもあのお客さんの中に喜助さんの気に入った人が
 出てきたら…仕方ないかなって思ったら…なんかね…ちょっと悲しくなってきてね…。」



布団から出ている の眼には涙が滲んでいる。



「そーんなワケないでしょ!?」

「でも…」

「『でも』じゃないッス!」



喜助は、 の顔の左右に手を付いて…
そして彼女の涙を拭ってやった。



サン…布団から顔全部出して。」



はおずおずと布団を唇の下まで下げる。
喜助は出てきたそれに短いキスを落とした。



「店が繁盛するのは喜ばしいことッス。もちろんお客様は神様ッスからね。
 いい顔をしなくてはならないのは仕方のないことデス。
 たしかに人に褒められたりチヤホヤされるのだって悪い気がしない…時もあるでしょう。
 でも、アタシが サン以外の人に心奪われるなんてことは絶対にありえない。」

「………」

「それよりも…逆に…アタシはアナタに…他に好きな人が出来て…アタシの元から去ってしまうなんて事が…」

「喜助さん…。」

「そんな事がもしも起こったとしたら…考えただけでも辛くて恐ろしいッス…。
 たぶん、諦められなくて何をしでかすかわからないッスね…。」



喜助は少し寂しそうに笑った。
はそんな喜助の首に自分の腕を絡める。



「それこそ、『何言ってるの?』だよ…。 ………ごめんね…… 喜助さん…。」

「どっちが慰められてるかわからなくなったッスね。」

「でも喜助さんは本当にカッコイイから心配なのはホント。」

「それを言うなら サンだって、変な虫に言い寄られたらと思うと気が気じゃない!」

「私は大丈夫。美人でもなんでもないから。」

「なーに言ってるんスか!?アナタほどカワイイ人、他にはいな…。」

「あー!ありがと!!それ以上言わないでいいです…恥ずかしいから…。」



喜助は今日2回目のキスを に浴びせると、自分と一緒に彼女を布団から出して立ち上がらせた。



「さぁ、夕飯を一緒に食べましょ。お腹ペコペコッスよ。」

「え?喜助さん、ゴハン食べてないの?」

「はいな。アナタと一緒(笑)」

「ご、ごめん…。」

「いいッスよ。食前にアナタの唇をいただけたワケですし♪」

「 ! 」

「きっと、テッサイが夕飯の準備をしてくれてますヨ。」



喜助は顔が紅くなった の手を引っ張り、居間へと向かった。

 

 

 



FIN :*:・。,☆゚'・:*:・。・:*:・゚'☆,。・:*:*:・。,☆゚'・:*:・。・:*:・゚'☆,。・:*





テッサイ「 殿!腹が減ったでしょう。さぁコチラへどうぞ。」
「すみません、テッサイさん。お騒がせ致しました。」
テッサイ「いえいえ、元はと言えば店長がデレデレしていなければよかった事。」
喜助「おや!?ずいぶんと直球で言うッスねぇ。」
テッサイ「女性を泣かすとは言語道断!ましてやご自分の大事な方を泣かすとは!!」
喜助「そ、それを言われると…(´・ω・`)ショボーン」
テッサイ「だいたいですな、ご自分の大切な方への配慮が少々足りないのではないかと…。」
喜助「(゜◇゜)ガーン テ、テッサイに言われるとは…┏(-_-|||)┓ガックリ」
「テッサイさん、その辺で許してあげてください…。」
喜助「 サァンvvv」
テッサイ「いーえ、 殿は店長に甘すぎます!!クドクドクド……」
喜助(今日のテッサイ、なぁーんでこんなに食いついてるんでショ??)
「テッサイさん、心配して下さるのはとても嬉しいんですけど、今日はどうしてこんなに…?」
テッサイ「夜一殿に頼まれました故。」
喜助「えー!?夜一サン…スかぁ?」
テッサイ「『なにかあれば厳しく対応せよ』とのこと。」
喜助「はぁ…_| ̄|○ガクリ」
テッサイ「それから『起きたことについては必ず報告するべし』とのことです。」
喜助「そ、そんなぁ!!!」
テッサイ「おそらく夜一殿からも今回の件について、話があるかと…。」
喜助「あ!そうッス!これから仕入れに行かなくてはいけなかったんだぁ(^^ゞ」
夜一「ふうん…どこまで仕入れに行くんじゃ?」
喜助「(ノ><)ノヒィ! よ、夜一サン!!」
夜一「また を泣かしおったのか?んんっ!?(--#)」
喜助「そそそそそんな、誤解ッス!!泣かしたなんて…(滝汗)」
夜一「 !いい加減眼を覚まして、こんな男と別れた方がいいんじゃないかの?」
「………(苦笑)」
喜助「 サン!そこは全力で否定して『私は喜助さんとは離れられません』とか言っていただかないと!!!」
「…そだね…(苦笑)」
喜助「 …サァァァァァン!!!ヽ(`Д´)ノウワァァァンン」