十五夜、浦原商店からお月見に招待された。
縁側に月見団子とススキ、テッサイさんのお料理、そして大人用の月見酒が用意してあった。
「わあ、本格的ねえ。」
「そりゃそうっすよ。
サン御招待ですからみんながんばっちゃいました。」
「それじゃあ私も早く来て手伝えばよかったね。」
「何を申されます、お客様にお手伝いなどさせられませぬ。ささ、
殿奥へどうぞ。」
そういうと大きなテッサイさんは私の背中を押して縁側の喜助さんの隣に座らせた。
「じゃ、遠慮なく。」
「どーぞどーぞ、あ、アタシの秘蔵のお酒どうっすか?」
そう言って手渡されたぐい呑みはとても綺麗な瑠璃色の江戸切子で
思わず“綺麗…”と呟くと喜助さんは満足そうに笑った。
「おっ、だんご旨そう!」
「ジン太くん…だめだよ。」
「いいんだよ、月見の団子は食っちまっても。」
いつもの二人の子供の喧騒も私にとっては微笑ましく笑って見ていたら
浦原さんも扇子をハタハタさせながら
「まあまあ、二人とも御馳走もあるんすからそっち食べたらどうっすか?」
楽しそうだった。
ここに招待されるのはとても好き。
親切なテッサイさん、元気なジン太くんと雨ちゃん。
そして…
「どうしたんすか、ぼんやりして?」
「ううん、楽しいなあここはって思って。」
喜助さんの優しい声が聞ける。
それ以上は望んでない。
ある程度大人になって…物事に期待することがなくなったから。
私がここに来るのはここにいるのが楽しいから、ただそれだけ。
「そりゃよかったっす。」
ただ…それだけ。
私はぐい呑みの中身を少し舐めた。
珍しく雲ひとつない夜空に光る月は何かを語りたいのに黙っているように見える。
見えるのは私の心情のせいなんだろうか。
「
サンは…お月様って言ったら何思い浮かべます?」
「唐突だね。どうしたの?」
「いやあ、別になんとなくっすよ〜。
あえて言うならお月様が聞いてくれって言ってるみたいな気がしたんすかね。」
「うわっ、詩人。」
「あらあ、知りませんでしたあ?アタシけっこうポエマーなんすよ。」
喜助さんがお酒を勧めるので残ったお酒をグイッと飲めばすかさず次を注いでくれる。
それをチョロっと舐めながら少し考えた。
「お月様って言ったら私はかぐや姫思い出すなあ。」
「竹取物語っすか?」
「そう。今日みたいな綺麗な月だと、ああ、こんな時にお迎えに来たんだなあって。」
喜助さんはまた少なくなった私のぐい呑みにお酒を注いでくれたので
私が喜助さんのぐい呑みにお酒を注いだ。
「ちょっと嬉いっすね、こういうの。」
「そ?」
なんだか静かだと思ったら他の人たちがいなかった。
「ジン太君と雨ちゃんは?」
「何時だと思ってるんすか、子供はもう寝る時間すよ。」
確かに月は先程からかなり傾いていた。
「テッサイさんは?」
「後片付けじゃないっすか?っていうよりアタシに気を使ったんだと思いますけどね。」
「何で?」
いただいたお酒をチビチビ飲みながら喜助さんを見ると
首の後ろをカリカリ掻きながら口をへの字にした。
「
サン、アナタはいっつもかぐや姫みたいに逃げちゃうんすねえ。」
「えと、ああ、求婚者に無理難題を押し付けて断ったって?
私喜助さんに無理難題なんか押し付けてないよ。」
求婚もされてないけどね…とこれは心の中で呟いた。
「そこじゃなくて、続きがあるでしょ。」
「えと…?」
私は続きを思い出す。
かぐや姫の噂を聞いた帝が求婚するも、自分が月人と明かし文を交わすだけの仲になり…?
「それで帰るときに自分の気持ちを文にして帝に不老不死の薬を渡すんだよねえ確か。」
「アタシをおいてどっかいっちゃ困りますよ。
アナタがいなくちゃ…不老不死なんて意味がなくなります。」
ぐい呑みをクイッと傾けて中身を乾した。
「別にどこもいかないけど…」
「そうやって逃げちゃうんすよ。いつだってアタシは大好きですよって言ってるのに。」
「でも喜助さんそういうことわりと誰にでも言うよね。女性に褒め言葉。」
はあ、とため息が聞こえる。
手に持つぐい呑みをコトンと置くとのそりとこちらに身を乗り出した。
「そりゃ女性は褒めますよ、商売にも関係してきますからねえ。
でも…大好きなんて誰にも言ってないんすけどね、アナタにしか。」
期待しないようにしてる。
「ありがと。」
「また逃げちゃうんすね。」
そんな顔しないで欲しい。
期待してしまう。
「世の中…この人じゃなきゃダメなんてコトは滅多にないとは思うんすけど…
アタシにはアナタじゃなきゃだめなんすよ。」
帽子の影から覗く瞳が私を呼ぶ。
期待すると落胆が多いっての言うのは人生の中で学んだはずなのに…。
「気が遠くなるほどの長い時間の広〜い世界でアナタがアタシの目の前にいてくれるって軌跡なんすよ?
…だから逃しませんよアタシはしつこいんすから。」
「喜助さん、酔ったの?なんか変だよ。」
「このくらいのお酒でアタシは酔ったりなんかしません、酔ったとしたら…」
伸びてきた手がうなじにスッと入り軽く動きを封じられる。
「この月の光とアナタっす。」
最後の言葉はあまりにも近くから発せられたためそのまま私の中に溶け込んだ。
自分も飲んでいたけど…
唇から流れ込むお酒の芳香は喜助さんのほうがはるかに飲んでいたという証拠なんだろう。
名残惜しそうに離れた唇から発せられた言葉は後悔にも似たもの。
「言うつもりは…なかったんすけど…。
ずっと傍にいられるだけでよかったんで。月の影響なんすかね、この狼男現象は…。」
「しなきゃ…よかった?」
「まさか。ここまで白状しちゃったんすから…もう本当に逃がさないっすよ。」
ニヤリと笑った。
何も期待しないのは…落胆したくないからだけど。
もう一つ。
期待してない分、起こった事象への嬉しさが倍増するからっていうこと。
何かを語りたそうだった月が
「ね?」
と言った気がした。
「峠の茶屋」の風様より頂いた喜助話デスvvv
もともと私がコチラのサイト様に惚れて「リンクしていいッスかぁ?」と伺ったところ、
なんと相互リンクしてくださった上に、こんな素敵な話まで頂いてしまいました!(!o!)オオ!
エロエロな浦原さんも好きですが、モジモジ浦原さんも好きなので
(サイト的には大人風味は一切無いんですけど…つーか、文才が無さ過ぎで書けない…_| ̄|○ガクリ)
小躍りどころか、東京音頭を踊っちゃいます(江戸出身者なので(^^ゞ)
浦原さんと浦原商店で酒飲みなんて出来たら…いいよねええええええぇぇぇぇぇええ!!
しかも浦原さんとチューしてるよ!チュー!!(大事なことなので二度言いました(笑))
くっそー!浦原さん、髪の毛蜂蜜色だし、眼も色薄いし、外見全く日本人じゃないのに
名前はばっちり日本人だし、甚平似合うし、日本の行事が似合うし…(強制終了)
本当に素敵な話をありがとうございました!!
こちらこそこれからも宜しくお願い申し上げます!!