+10、−10…考えたってどうになる物でもない。


「でね、色々と損をしてると思うんだよね、私としては。」


「ほー。」


喜助さんの部屋で愚痴っていた。
喜助さんは聞いているのか聞いてないのか微妙な状況で文机に向かってひたすら何かを書いていた。


「高い所にある物を取ってくれだの高い所に乗せてくれだの…。踏み台使えば誰でも届くでしょって思うのよ。」


「そうっすねえ。」


「逆にね、低い所のものを背の低い女の子に取ってくれとか、潜って引きずり出してきてくれなんて絶対にないでしょ?」


「そりゃそうでしょ。」


「ぜ〜ったいに不公平。」


力説する私をよそに喜助さんはウンウンと頷くだけ。
熱く語る私の言葉はどうもすり抜けている気がする。


「それにね、今日だってちょっと踵の高い靴を履いていたわけよ、それもたいして高くないの。そしたらほぼ全員に言われるのよ、“でかいなあ”って。」


「フンフン…。」


「小さい人には“小動物みたい”とかかわいい例えがいっぱいあるのに…」


「そうっすねえ。」


「聞いてる?」


「聞いてますよ〜。」


怪しいものだ。必要な情報だけを残してあとは右から左へ流れていくのが見えるよう。
試しにちょっと質問をしてみる。


「大きい人を例えるとしたら何にする?」


「きりんっすね。もしくは象。」


ほら…必要な情報しか残ってないからそんな事平気で言えちゃうんだ。
傍らにあるお茶を一口飲んでため息をつく。


「じゃあさ、大きい荷物を持っている女の子が二人いたとします。一人は小さい人で、一人は大きいとしたら…どっち手伝う?」


「小さい方っすね。」


(即答かよ…)


結局私の方に振り向きもせず、ひたすら書き物を続ける喜助さんに愚痴るのは無駄なのかと立ち上がろうとした。


「あれ、 さん帰っちゃうんすか?」


するとようやく振り返って立ち上がった私を見上げた。


「帰りますよ、邪魔しちゃ悪いもんね。」


「邪魔だったらそもそも通しませんて。ま、いいから座りなさいよ。」


「いいよ、なんだか独り言言ってる気分になってきたから帰る。」


“まあまあ…”などと言いながら立ち上がった私の腕を引き座ることを促し、今度は私の正面に座った。


「いいっすか、まずね、 サン、アナタ、アタシが話を聞いてないって思っているようっすけど、そりゃ大きな間違いだ、さっきからちゃ〜んと聞いてますよ。」


「そう?その結果があのどうでもよさそうな返事なんだね〜、なるほどなるほど。」


「ま〜たそういう捻くれた事言って〜。」


「貴方に言われたくないよ。」


「ま、そりゃそうっすね〜。」


そう言って懐から取り出した扇子でハタハタ扇いだ。
…かと思うと、今度はその扇子をパチンと閉じて胡坐を組んだ膝のあたりを軽くコンコンと叩き始めた。


「つまり サンとしては背が高いと周りからの扱いがひどい…と言いたいわけっすね。」


「まあ…まとめるとそう。」


「男の人も冷たいってことっすよね。」


「ん〜…そこまでは言わないけど。小さい女の子に対しての方が…親切になるような気はするよ。」


「なるほど。」


そこまで聞くとしばらく喜助さんは黙り込んで考えていた。
この人の事だから、きっと今までの話を理論的に解析してそれなりの答えを模索しているに違いない。


「まあ…そんなに真剣に考えているわけじゃないんだけどさ。」


口を尖らせたまま考え込んでいる喜助さん。


(ただの愚痴だから、そんなに納得するほどの答えが欲しいわけじゃないんだけどね。)


その真剣な顔に苦笑した。


「ま、ほら、並ぶと私の方が高くなっちゃうし…とかさ、その程度のことなんだけどね。」


そのあと“へへっ”と軽く笑ってこの話題を終わりにしようとした。
すると、喜助さんは聞こえるか聞こえないかぐらいの声でぼそっと呟いた。


「まあ…+10センチなら…それも問題ないでしょ。」


そう言った喜助さんはズイッと身体を乗り出して話し始めた。


「高い所のものを取ってくれなんてアタシは言った事ないっすよねえ。」


「ないね。」


「一度もでかいなんて言ったこともなければ思ったこともない。」


「そりゃどうも。でも例えるとしたら、きりんか象なんでしょ?」


「そりゃ一般的な話っすよ。アナタの話をしてたわけじゃない。」


「なんか…屁理屈っぽい。」


そう答えると今度はその扇子でツンと軽く私のおでこをつついた。


「屁理屈なんかじゃありませんよ、立派な理論すよ。」


私はつつかれたおでこを軽く撫でながら喜助さんを見た。


「でも、大きい荷物も手伝ってくれないんだよね。」


「それも同じっす、アナタの話じゃない。」


そう言うと少しだけ目を細め、軽く首をかしげて話を続けた。


「じゃあお聞きしますけどね、さっきから、こ〜んなにも接近した状態で、まじろぎもせず…普通に話されちゃってるアタシだって…けっこうひどい扱いだと…」


更にもう少し近づいた喜助さんの顔は。


「思うんすけどね。」


数センチのところにあった。





ザッ!





「ありゃ。それもひどいんじゃないっすか?」


気付いた私は物凄い速さでその場所から後ずさっていた。


「あ、いや、だって…近い…よ。」


そう答えた私に喜助さんは満足そうに笑った。


「なんで、そんなふうに笑ってるのよ。」


「そりゃあ…ねえ。」


扇子で口元を隠しているが、まだ笑ってるようだ。


「そんなに…笑わないでよ。そんなにおかしい?」


「あ〜、いや、おかしいっていうより嬉しいっていうのが…正解っすかね?」


「なんで?」


そう問い返すと、再びのそのそと近づいてきて壁に張り付いていた私の顔を覗き込んだ。
そして、その近さはまた数センチ。


「…ちょ〜っと…近すぎだと…思うんだけど。」


頬が熱くなるのを感じる。


(こんな…顔だったっけ?)


下からやや見上げるような瞳は切なげで、笑っているのに少しだけ寂しそうで…


(そっか…こんな顔だったかもしれないけど…)


しばらくその数センチで見つめていた喜助さんだったけどやがて軽くため息をつくとニンマリと笑って離れた。


「ま、いいでしょ、今日のところは。 さんが意識してくれただけでも…よしとしましょ。」


(…そう、意識…しちゃったんだ、私が。)


離れてくれて、緊張した身体は脱力したけれども顔の火照りはおさまらない。
逆に、緊張で冷えた手を両頬にあてて、冷やした。


「ねえ、 さん。」


「なん…でしょう?」


「…+10センチで…アナタの不満て解消できます?」


「?」


話の意図が今ひとつわからずに瞬きをしながら喜助さんを見ていた。


「10センチも余計にあれば…たぶんそれより大きくなることもないでしょうし。」


「あ〜…えっと、そうかもね。」


そう答えると“ん”と満足そうに頷いた。


「で、まあ、アタシがそのちょうど+10センチだったりするわけなんすけどね。」


「あ…そう。」


「…どうでしょ?」


どうでしょ…と言われても、返答方法に困ってしまう。


「どうです?」


しつこいまでの勧誘につい


「あ、…うん。」


と答えればまた満足そうに“ん”と頷く。


「じゃ、まあそういうことで、一つお願いします。」


扇子をパタパタさせながらニンマリと笑った喜助さん。
今までのながれがいったいなんだったのか、今一つ把握できない私。


「なんか…強引な新聞勧誘に引っかかった気分。」


「ありゃ…心外っすねえ、その言い方。」


「そうだよね、新聞屋さんだったら洗剤とか色々くれるし。」


どうしても釈然としない私の捻くれた物言いに


「ああ、新聞勧誘だったらクーリングオフも適用かもしれませんが…」


同じように捻くれ口調で答え


「アタシの場合は適用外になりますんで、そのへんもご了承願いますよ。」


(新聞屋より性質悪い…)


そう思う私を後目にニンマリと笑うだけだった。








 



「峠の茶屋」の風様より喜助話を頂戴いたしましたーーーー!!!
いっつも駄絵を勝手に送りつけているにもかかわらず、
こんなにも素敵な話をくれちゃうんですよぉぉ(; ;)ホロホロ

今回は身長の高いヒロンの話。
でもね〜、喜助もかなり背が高いので問題ナッシングでございますvv
背の高い悩みって、私も背が高い方なのでよおくわかります!
(・・)(。。)(・・)(。。)ウンウン

毎度素敵な話をありがとうございます!!
いつもいつも×∞ お世話になっております。ヾ(´▽`;)ゝエヘヘ
これからも遊んでやってくださいまし!!!!!

<(_ _)><(_ _)>