「a crimson face」
隊舎へ戻るために、
は近道となる十一番隊の鍛錬場の前を通った。
鍛錬場からは気合いの入った声が聞こえる。
「更木隊の活気は違うわね…」
そう思った矢先、気合いの入った声から今度はどよめきに変わった。
は『アレ?』と思ったが、気にせず通り過ぎようとした。
「あ、四番隊!」
「え?」
腕を捕まれ、十一番隊の鍛錬場へ連れて行かれた。
中へはいると、人…いや、死神の山で口々に「大丈夫ですか」という声がする。
そこへ
の腕を掴んでいた死神が「四番隊、つれてきました」というと
死神の山が真っ二つに割れ、道が出来た。
道の奥には丸坊主の死神といやに睫毛がカラフルな死神が腰をおろしている。
「あぁ、早くこっちへ」
睫毛のカラフルな死神が手招きをすると、
は腕を掴まれたまま
死神達の間を通った。
……それにしても、ホントに十一番隊は男ばっかりなんだなあ…と
は思った。
「キミ、四番隊の何席なんだい?」
「…え…」
は少々困った。
彼女の所属は「四番隊第零班」。
第零班というのは、上級救護班より更に上の特別救護班であり、
上層部連中、上位席官の治療、上級救護班で匙を投げた治療…等々
とにかく四番隊の『奥の手』であり、一般の死神にはその存在すらも知らない者が多い。
しかも彼女はその班の「班長」であり、実は護廷十三隊隊長と対等の位を持っている。
まあ、肩書きと羽織の無い「隊長」と言ったところだろうか。
「…で、何席?」
睫毛のカラフルな死神が聞き直した。
「私は『
』と申します」
「
…
…」
「四番隊での所属は…『待って!!』」
の言葉を急に遮ると、彼は慌てたように
「今までの無礼の数々。申し訳御座いません。僕は『綾瀬川弓親』十一番隊の五席です」
「「「え?」」」
周りの死神達も
と一緒にポカンとしていた。
「綾瀬川五席!一体何を…?」
「この方は、四番隊でも特別救護班班長、隊長と同じ位の方だよ」
「「「え-----------!!!!!!!」」」
あ〜あ、言っちゃった。
はその場で苦笑するしかなかった。
でも何故自分の事を知っているのだろう?
「…綾瀬川…君、何故私のことを知っているの?」
「席官クラスなら誰でも知っていますよ。ただ、ご本人をお見かけしたことがあるかないかは別ですが」
そ…そうなんだ…。
四番隊の第零班は完全極秘…というのは昔のこと。
今では隠してはいないのだが、イチイチ言うのもメンドクサイし、
なにしろ自分が隊長格の「零班班長」とかしこまれるのが少々窮屈だった。
しかも年齢は浮竹や京楽と同世代。
彼らよりもずっと年上なわけで…。
乙女心にも、あまり言いたくない年齢ではある。
「と、とにかく怪我人?病人?早く見てみましょう」
「よろしくお願いいたします」
患者は、先程見かけた、丸坊主の若い死神。
瞼の上がパックリ切れていてかなりの出血をしていた。
鍛錬中にたまたまぶつかって割れてしまったらしい。
しかし本人はグッタリどころか酷く機嫌の悪い様子。
「弓親!治療なんていらねえ!!」
「でも一角…」
弓親が一角に耳打ちすると
「げッ!」と一言。そのまま大人しくなってしまった。
どうやら一角も「四番隊第零班」の存在を知っていたらしい。
しかもその零班班長というのは、べらぼうに強く、
強い=更木隊長
の式が一角の頭の中に出来ていた。
「デハ…オネガイシマッス…」
「とりあえず、傷を見るわね〜」
そう言って
は傷口を見始めた。
しかし、一角を心配してた死神達が影を作ってしまい
傷口をよく見ることが出来ない。
「ん〜、ここじゃあ暗くて治療しにくいわね…ちょっと外で治療をしていいかしら?」
「あ、他の隊士達は鍛錬を続けるように」
弓親が他の隊士を制した。
外で治療することで、傷口をハッキリ見ることができた。
それと同時に、
の顔もハッキリと見え、あまりの美人に一角は紅くなる。
「斑目君、どうしたの?」
「え?」
「顔が紅いけど、熱でもあるの?」
「いや…ね…熱なんてそんなの…」
「
班長、一角は貴女の美しさに照れているんですよ」
「ウルセー!弓親!!」
事実、弓親も認めるほどの美しさで、鍛錬場からも多くの隊士が覗いている。
「それにしても、見事に瞼の上が割れてるわね…斑目君」
「……一角でいいッス」
「じゃ、一角君、ちょっと傷の中を見ますね」
「うわッ!!!」
一角の顔から数センチの処まで、
の顔が近づいてきたものだから
一角の顔は茹でダコ状態。耳も当然真っ赤だった。
そんな状況の前を、十四郎が通った。
それに最初気づいたのは弓親。
「あ、浮竹隊…長…?」
明らかに十四郎の顔は強ばっていた。
十四郎が、この「
」と同級生であり、彼の想い人であるということは
皆の知るところであり、公認の仲でもある。
しかし、2人は互いに「片想い」だと思っていて、一緒になるんだか、ならないんだか…
そんな関係をいつまでもしている。
その「想い人」が目の前に居るというのに、声を掛けるどころか固まっているといった様子だ。
「浮竹…隊長…」
「…え…あ、綾瀬川君…」
「珍しいですね、十一番隊の前を通るなんて」
「…あぁ、ちょっと更木に用事があったんでな…」
「…顔色が…大丈夫ですか?」
「…だ、大丈夫だ…」
十四郎は、そのまま去っていってしまった。
に声を掛けずに。
そして、そんな十四郎に
は気づかなかった。
弓親は十四郎の行動に疑問を感じたが、「あ!」と一声叫ぶと
の背後へ周り、一角と
の様子を見た。
それは、真っ赤な顔の一角にちょうど重なる
の顔…。
これではまるで
班長が一角に接吻をしているような…。
これはマズイ!
「一角!マズイことになったよ」
「なにがだよ」
「浮竹隊長に卍解されて殺されるかもよ」
「なんで俺がッ!」
「浮竹隊長がどうしたの?」
「
班長、一角が殺されないように浮竹隊長に弁明をしていただかないと」
「?」
は事の重要さにまだ気づかない。
*
「十四郎、入るわよ」
陽も沈み、辺りが暗くなった頃、
は雨乾堂を訪ねた。
しかし中から声はしない。
霊圧が十四郎の存在を示しているというのに。
部屋の中は灯りが灯っていたが、主は布団を頭の上まで被っていた。
「眠ってるの?」
が小声で言うと、「起きてます!」と言わんばかりに
寝返りを打ち、背を
に向けてしまった。
「具合悪いの?」
「………」
「起きてるんでしょう?」
「………」
「…黙っていては解らないじゃない」
大きな駄々っ子がこの雨乾堂には住み着いてるなぁと
小さな溜息をつくと、
は十四郎の布団を少しだけめくってみた。
すると自分の周りに部屋の灯りが入ってきたので、十四郎はソ〜ッと
後ろにいる
の方へ振り向いた。
「…なあ…
…」
「なに?」
「…その…なんだな…若いヤツが好みなのか?」
「なんで?」
「なんでって…」
十四郎の言葉はシドロモドロで…
とてもじゃないが、隊士に見せられない状況。
「なんで、そんなこと聞くの?」
「いや…」
ヤレヤレ…ともう一回小さな溜息を
はつくと
立ち上がって、窓のそばへと移動してしまった。
そしてそのまま池を眺めながら、ポツリと話し始めた。
「頭が丸坊主でも、睫毛が色んな色をしてても、髪に鈴が付いてても、笠を被っててもいいよ」
「!!(なんだって!?)」
の言葉の意味がよく理解できなかった。
ただ理解できたのは「丸坊主=斑目」「睫毛=綾瀬川」「鈴=更木」「笠=京楽」ということ。
しかし4人も…。
十四郎の頭が混乱している中、
の言葉は続く。
「自分の好きな人がどんな格好をしてても、私は『その人』が好きなんだもの」
「どんな格好…?」
「そうよ、たとえその人が虚であってもね。あ、そんなこと言っては死神失格よね(笑)」
その人!
その人とは一体誰なのか?
知りたい気持ちと知りたくない気持ちが、十四郎の中で交錯する。
しかし知りたい気持ちの方が勝った。
「…『その人』とは…?」
「そうねえ…その人はね…」
「人望があって、優しくて、強くて、あたたかくてね…
少し身体が弱くて、少し子供っぽくて、少し頑固者なの(笑)」
それって…
「それって…俺…か?」
「さあね(笑)」
「違うのか?」
「どうなんでしょうね(笑)」
恋は疑いやすきもの。
明らかに自分のことを言われているのに、
一言「浮竹十四郎のことだ」と言われないと信じられない。
…と、突然
がクルリと十四郎の方を向いた。
「でもね十四郎、私思うんだけど…」
「何だ?」
「瞼の上の傷を治療しているだけなのに、勝手に何かと勘違いをして黙って去ってしまうのって…どう思う?」
「瞼の上の傷を治療しているだけ…?勘違いをして黙って去る…? … … あっ!」
十四郎は、
の言葉で全てを悟った。
皆、自分の勘違いが原因なのだ。
「一角君は、ただ顔が紅くなってただけで、それを誰かさんが私と接…「わー!言うな!!」」
「…十四郎くん。」
「…ハイ…」
「隊長ともあろう者が、状況把握も出来ないで、ダメじゃないですか(笑)」
「ごもっともデス…」
十四郎の顔は真っ赤で、顔だけ布団で隠してしまった。
そして紅い耳だけは
に丸見えで。
「真っ赤な耳が見えてますよー(笑)」
「……」
「一角君と同じぐらいの紅さだね、十四郎」
「……」
何も応えないので、
は見えている紅い耳をキュッと掴んだ。
十四郎は少々驚き、ピクリと動いたが、
の手の上に自分の手を黙って重ねた。
END
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