「agitation」























いつものように十四郎の診察を兼ね、薬を届けに雨乾堂へ行った。










扉に手を掛け「十四郎、入るわよ」と言って開けようとした時、
中から激しい咳をする声が聞こえた。










「十四郎!」










急いで雨乾堂の中へ入ると、そこには血を吐いた十四郎。
咳もまだ治まらない。












「発作が起きたのね!」
「ゴ…ホ…。  …。」
「黙って!」












は手に霊力を思いっきり溜めると、十四郎の胸に両手をあてた。
しばらくすると、肩で息をしていた十四郎がだんだん落ち着いてきたのがわかる。













「すまない… 。だいぶ楽になってきた…。」












ウソだ。まだこんなに顔色が悪い。
は黙って懐から手拭いを出すと、十四郎のクチに付いた血をふき取った。










「手拭いが汚れるぞ。」
「そんなことはいいの!」











そして奥の押入から、十四郎の寝巻き、掛け布団を出して交換する。










「薬は後でいいから、とにかく横になって休んで。」
「あぁ、そうするよ。」









十四郎はゆっくりと横になり、眼を閉じた。





























 

 

 

 

 












2時間ほど経ったのだろうか。
血で汚れていた寝巻きと掛け布団は片づけられていた。
池に面した窓では頬杖をついている が見える。


















 

 

 

 





泣いているのか?



 

 

 

 










 

 

 








十四郎の起きた気配に気づき、
が目を擦ったような素振りを見せ十四郎の方へ振り向く。












「十四郎、気分はどう?」
「かなり楽になったよ。」
「そう、ヨカッタ。」









ニコッと笑う
でもどこか悲しげな気がする。













、何かあったのか?」
「なんで?」
「眼…赤いぞ。」














『しまった!』というような顔をした だったが、
『なんでもない』と言うだけ。













「『なんでもない』じゃないだろう。何かイヤなことでもあった…」
「違うよ。」
「じゃあ…。」





 

 







十四郎は が心配でたまらない。
それがわかったのか、 は観念したように話し出す。







 

 

 

 






「さっき、十四郎の発作が出たじゃない。」
「ああ。」
「あの時は、発作を抑えようと必死で治療をしていたんだけど…」
「……」
「治療が終わったあとに、あの対処は間違っていなかったのだろうかと思えば思うほど、だんだん不安になってきて…」
…。」

 

「今、目の前に落ち着いた十四郎がいても、きっとこれは無理をして明るく振る舞っているんだと…」






 

 






の眼からまた涙がこぼれる。




 

 








「いつも怖くて怖くて、私の施術は役に立っていないんじゃないかと…」

。」
「そう思うと心配で申し訳なくて…」
!」



 

 

 

 





十四郎が少し大きな声で の名を呼んだ。
は少し吃驚したものの、すぐに下を向いてしまった。





 

 

 









、俺をよく見てみろ!」


「十四郎…。」







 

 








十四郎は の両肩をグッと掴む。











 

 





「お前の目の前にいる患者は、無理なんてしていないぞ!無理どころか感謝しているぐらいだ。」

「……」

「四番隊で一体どれだけの死神を治したか思い出せ!
 俺の発作のときもそうだ。いつも素早く的確な処置を施しているじゃないか!」
「それは…」
「それが本来の のチカラなんじゃないのか?だから悩むことなんかないんだ。」

「十四郎…」








 

 






そして肩を掴んでいるチカラがフッと弱まり、






 

 






「完璧な施術をしてから、動揺する奴があるか。」




 

 







と、十四郎は笑った。







 

 








「昔から心配性だったからな…、 は。」
「だって…それは十四郎が発作を起こして…」
「そうだよな、俺が発作を起こすと、お前は泣きながら俺の手を握ってオロオロしてたっけ。」
「う…。」
「そういう処は昔とあまり変わってないかもな…  でもな。」
「?」

 

 

「俺だって死ぬときは来る。」

 

 


「……う…ん。」





 

 









の顔が暗くなった。
十四郎は溜息をつきつつ、







 

 

 

 







「いいか、よく聞けよ!」










 

 










「俺が死ぬときは、『老衰』か『 がいなくなった時』だけだ!」













 

 









「は?」
















 

 








私がいなくなったとき??
















 









「つまり、『俺を診てくれる奴がいなくなれば俺は死んでしまう』ということさ。」
「……?…??」

 

「だから〜、 の治療じゃないと俺はダメだってこと…だ。
 皆まで言わせるな。恥ずかしいじゃないか……。」






 

 

 

 







そう言って十四郎は明後日の方向へ顔を向けてしまった。
はというと、やっと理解したようで、少し驚いたようだったが、




 

 

 







「ありがとう…十四郎。
 心配はこれからもたくさんすると思うけど、心配させないように頑張るよ…。」






 

 

 





と言って満面の笑みを十四郎へ向けた。





 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







泣きながらオロオロしていた『あの子』はもういない。





























 END


























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