「bonbon」
八番隊詰所の前を通りかかった時、中から女性の怒鳴り声が聞こえてきた。
「……また春水が伊勢さんを困らせてるのかあ…」
しょうがないなあ…と思いながら通り過ぎようとしたとき、
春水がものすごい勢いで外に出てきた。
「うわっ!…って『
ちゃん』!!」
「…(ビックリ中)」
「そんな処で突っ立ってないで、逃げるよ!」
「あ、えっ?何?」
春水に横抱きにされ、瞬歩でその場を去った。
何故私も一緒に逃げてるのかしら…?…?…?
そんな事を思っているうちに、かなり遠くまで来たようで、
追っ手も来ない。
「ここまで来れば大丈夫v」
「『大丈夫v』って、また伊勢さんを困らせてたんでしょ?」
「うっ…」
「ところで、ここは何処なの?」
周りを見渡すと原っぱ…のような、大きな公園?
とにかく芝生が一面に続いている、とても綺麗な処だった。
その芝生の真ん中にこれまた大きな木が1本。
春水は、軽々とその木に登り、下にいる
に手招きをした。
「おーい!早く登っておいでv」
「春水、ここは馴染みの場所なの?」
も軽々と登り、春水の隣に座る。
座っている枝は、眠るにもかなり居心地の良さそうな場所で、
さすが春水、こういう処を見つけるのは早いな…と苦笑した。
「そうだよ。ボクしか知らない処v たぶん七緒ちゃんも知らないと思う」
「へえ…そうなの。ということは、いつも此処に逃げ込んでいるのかしら?
これは副隊長にご報告しておかないと!」
「
ちゃあん…そんなつれないことばっかり言って…(泪)」
ふふふ…と
が笑った。
「ところで、さっきは何故八番隊の前にいたの?」
「あ!そうそう!!春水にね、渡す物があったんだけど…」
「だけど?」
「物が物だけに、ちょっと伊勢さんの前で渡すのはマズイかなって思って」
「えっ!?何!?七緒ちゃんにはまだ早すぎるエッチなも…」
ドスッ!
「春水…!」
「ハイ、冗談デス。すみません…」
ったく!とブツブツ言いながら、
は袂から箱を取り出す。
「ハイッ!春水!!」
「? なんだい??」
「昨日ね、任務で現世へ行ったときに街で見つけたお菓子」
春水が箱を開けると、焦げ茶色の小さな塊が綺麗に並んでいる。
「これは…?」
「『ういすきーぼんぼん』って言うんですって。チョコレートの中に
『ういすきー』っていう現世のお酒が入ったお菓子だそうよ」
「へえ…」
「春水、『久里屋の徳利最中』が好きじゃない。だからこれも好きかなあって思ってね」
チョコレートとウイスキーの香りが春水の鼻をくすぐった。
「ところで、これが何故『七緒ちゃんの前で渡せない』ものなんだい?」
「お菓子とはいえ、お酒が中に入っている物を任務中にはマズイでしょ?」
「大丈夫だよ〜。だって菓子…」
「じゃあ、伊勢さんに渡しておきましょうか?」
「い、いや、有難く頂きマス!!」
春水は慌ててボンボンを1つ口に入れた。
香りの良いウイスキーが、そのまま入った…大人の味。
酒を呑みながらチョコレートを食べているような感じで
春水にとって今まで食べたことのない旨い菓子だった。
「これは旨い!!」
「ホント?ヨカッタ!」
「なに、
ちゃん食べたことなかったの?」
そう言うと、ボンボンを1つ手に取り、
の口に入れてやった。
「ん〜!結構お酒がキツイね。でも美味しい!」
「これで『菓子』っていうんだからさ。徳利最中より…」
「京楽隊長!!」
「ハイ、ウソです。すみません。」
「でもそんなに喜んでくれて、買ってきた甲斐がありました!」
が嬉しそうに言った。
しかし春水は、バレンタインはすでに過ぎてしまったというのに、何故買ってきてくれたのだろうと思った。
まあ義理でも好いた女性から貰えるのは有難いのだが。
「バレンタインは過ぎてしまったのに、こうしてボクにチョコをくれるなんて…」
「えっ?バレンタイン??」
「『えっ?』ってバレンタインは関係ないの?」
「バレンタイン…。あー!だからこの間、女の子達が皆お菓子を作ってたワケね!」
バレンタイン…全く関係なかったんだね…(泪)
少し淋しそうな春水を全く気にせず、
はニコリと笑ってこう言う。
「この『ぼんぼん』を買ったのは、春水に食べさせてあげたかったから」
「バレンタインだとか誕生日とか…そういうことは関係なくて…ただ春水にあげたかったからだよ」
どきん…
他の女の子達からだったら、『嬉しいなあvv』などと言って、おちゃらけもするのだが、
相手が相手なだけに、嬉しさを隠せない。
「
ちゃん…ありがとう…すごく嬉しいよ」
「あれ?春水、顔が紅いよ?」
「え?あ?…きっとこの『ぼんぼん』のせいサ」
「…そっか」
がニコリと微笑んだ。
ちゃん…
キザかもしれないけど、ボクは全生命をかけてキミに『永遠の愛』を捧げるよ。
それでも、
ちゃんの『ぼんぼん』と『笑顔』には劣ると思うけどね。
そんなことを思いながら、もう一つ『ぼんぼん』を口に入れた。
この『ぼんぼん』の味は、一生忘れられないナァ…。
END
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