「glowfly」
昼間の任務が忙しかったせいで、十四郎の処へ行くのが夜になってしまった。
ほぼ毎日往診に行っているので、だいたい行く時間というものが決まってしまうのだが、
たまに任務の量により、行く時間が遅くなることがある。
そんな時、十四郎は決まって
「来られるときに来てくれればいいさ。俺はいつでもいるから」
と笑いながら言ってくれる。
今日はかなり暑かったのだが、夜はだいぶ涼しくなった。
せめて夜だけでも涼しくならないと、皆参ってしまう。
そんな季節の空気を感じながら、急ぎ雨乾堂へ向かった。
池が見えてきたので、雨乾堂の灯りも見えてくるはず…と思ったのだが
水面に浮かんでいるはずの灯りは見えない。
こんな時間に主は留守にしているのかなと思いつつ、雨乾堂の御簾をあげた。
「十四郎?」
「おう!
!」
真っ暗な雨乾堂の中に、主はいた。
声から察するに具合は悪くない、むしろ機嫌の良い声がしている。
「灯りもつけないで…もしかして眠ろうとしてた?」
「まだ寝る時間じゃないだろ(笑)」
「じゃあ、なんで…」
「螢を…な」
「螢?」
池に面している窓が開いていて、そこから外のかすかな光が見える。
今日は曇っているので、月の光も…無いわけではないが、かなり暗い。
しかし真っ暗ではないので、窓のそばにいる十四郎の影は充分に見えた。
「螢が何?」
「いいから、
もこっちへ来いよ」
十四郎は顔を
の方へ向けずに手招きをした。
その手に誘われるようにして、
は十四郎の隣へ移動した。
「窓の外…見てみろよ」
「…うん」
窓の下…ちょうど池にかかる部分に草が密集しているところがあった。
その部分…よおく目を凝らすと螢がたくさん光っている。
「すっごーい!」
「だろっ!」
「毎年、こんなにスゴイの?」
「そうだな…。でも今年はいつもより多い気がするよ」
「キレイだね…」
はウットリと螢の光を眺めた。
十四郎からは
の表情は見えないが、かなり興味を示していることはわかった。
そんな
を感じつつ、十四郎は影しか見えない
を見つめ微笑んでいた。
しかし、
があまりにも長く窓の外を見ているので、
少々つまらなくなってきて、
「お〜い、
〜。いつまで見てるんだ?」
「ん〜、もうちょっと〜」
「俺の診察はどうすんだ?」
「…十四郎、今具合悪い?」
「なっ…」
「うそうそ(笑)」
は笑いながら、窓から顔をあげ、十四郎のそばへ来た。
「怒っちゃった?」
「俺より螢の方が大事なのかと思った(笑)」
「何を仰いますか、浮竹隊長♪」
「うっ…浮竹隊長!?」
「さあ、脈をはかりますから、左手を出してくださいね、隊長(笑)」
「隊長はやめてくれ(苦笑)」
「フフフ」
灯りをつけて診察をすればいいものを、何故か暗闇の中で診察をはじめている。
やはり、まだ螢が気になるのだなと十四郎は思った。
もちろん、今日の体調がすこぶる良いと判断した上での行動ではあるのだが。
暗闇とはいえ、目が慣れてきたせいか、お互いのシルエットははっきりと見える。
しかし表情までは相変わらず見ることは出来ない。
そんな中で、自分の左手首を柔らかく触れる
の指先に十四郎は全ての感覚を集中させる。
今、自分に触れている部分だけがとても熱く感じられるのは気のせいなのだろうか…?
「…大丈夫みたいね」
「そうか」
「ちゃんと薬を飲んでるお陰ね」
「誰かさんがウルサイからな」
「ウルサクさせているのは、ドコのドナタでしたっけ?」
クスクスと小さな笑い声が響く真っ暗な部屋に、一点の小さな光が入ってきた。
「あっ!螢!」
「一匹、入ってきたか(笑)」
「ちょっと待ってて!捕まえるから!」
はそう言うと、両手で包み込むようにして螢を簡単に捕まえた。
そして十四郎の目の前へ両手を持っていってゆっくりと開く。
螢は黄緑色を帯びた光を
の手の中いっぱいに発していた。
「こうやって近くで見るのもキレイなものだな」
十四郎が
のほうへ顔を向けると、螢の光にうっすらと浮かぶ
の顔----------。
どきり…。
暗闇に慣れた目には、螢の光だけでも
の顔を映すのに充分であって
その幻想的な美しさを放つ
の顔に、暫し見とれてしまった。
十四郎の心が跳ねた。
「あ、螢の光で十四郎の顔が見えるよ」
「俺も…
の顔が見えるよ」
紅くなった十四郎の顔は
には見えない。
でも十四郎には
の桜色の頬が見えた気がした。
END
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